テーマ : 事業継続計画(BCP)策定について

補助事業名 令和元年度組合等新分野開拓支援事業
対象組合等 千葉県生コンクリート工業組合
  ▼組合データ
  理事長 勝呂 和彦
  住 所 千葉市中央区弁天1-2-8 四谷学院ビル5F
  設 立 昭和63年10月
  業 種 生コンクリート製造業
  会員 44人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携部(℡ 043-306-2427)
専門家 事継舎 代表 佐藤 雅信

背景と目的

 企業が事業継続計画に取り組む狙いは、災害が発生した際(緊急事態)の備えであり、取り組みを通じて経営面での課題を把握し、対処法を見つけることにあります。企業の在り方を改めて整理し、全社一丸となって問題の解決にあたることは、人材の育成にもつながります。また、災害に強い企業になるには、自身の事業内容を整理する必要があります。 まず、事業を継続するには何が必要なのかを洗い出し、そのためには関係先とどのような取り決めを作り、どのような対処を取るのかを打ち合わせる必要があります。そうした取り決めを平時から行うことは、取引先の信頼向上、仕入先や協力会社など関係先との連携強化を図ることに繋がります。高い連携性は災害の対応として高い実効性を見込めるのです。 千葉県内の生コン事業者ならびに全協同組合が一堂に参加し、千葉県生コンクリート工業組合が事務局として事業継続計画策定に取り組みました。生コンクリート業界においては、品質維持、JIS規格の遵守、環境保全の高い意識が特色だと感じています。この特色を守り事業を継続するため、組合事務局としての役割、組合員企業の役割を明確にし、組合員企業が自身の事業を継続できるための施策と、組合としての事業(例えば共同販売)を継続するための施策を具体的に事業継続計画に盛り込むよう指導しました。

事業の活動内容

① 自社の現状を見つめる業務棚卸しに課題解決のヒント

 事業継続計画策定には、災害発生から復旧までの時間の経過ごとに対応目安を決めるマイルストーン(中間目標点)を作成することを勧めています。
 作成は一人で取り組むのではなく、従業員に検討し作成してもらうことが重要です。検討を通じて業務を棚卸しし、実態を理解し、災害時でも止められない業務を洗い出し、どのように復旧・継続するのかを皆で考え、ノウハウを出し合い共有します。
 業務の棚卸しをすることで、現状では困難となるギャップも明らかになります。ギャップを埋めるために、ルールを決める、周知する、準備する等の具体的な方法を考え出す。これが事前策であり、日々の業務改善や品質向上につながり、従業員のスキルアップにつながります。

② 全員経営を実践

 防災と事業継続計画の大きな違いとして、防災は有事の際に被害を最小限にする事を目的にしており、多くの企業で、総務部門で防災グッズの用意などといった形で進めることが多いと思います。しかし、その延長で事業継続計画を捉えてしまうと、総務部門だけで検討し作成することとなり、社員が個々人で持つノウハウが反映されません。
 事業継続計画の策定には、経営者が活動の実施を従業員に指示し、事務局が推進と進捗を管理し、会社の実態を熟知している人が参加することが有効です。外部のコンサルタントに計画策定を依頼(丸投げ)する方もいますが、もってのほかです。どんなに拙い表現でもかまわないので、従業員が考え話し合って作ると、自分の言葉が入った事業継続計画書は必ず読むことになり、責任をもって取り組もうという気持ちになるのです。社員一人ひとりが、自分が引っ張っていくと考え、責任をもって行動することが、事業継続計画活動の最終的な目標です。
 企業活動は従業員一人ひとりのノウハウで成り立っています。その人にしかわからないこと、できないこと(属人化)が社内にたくさんありますが、認識が低いのが現状です。従業員が急遽、休職や辞職で仕事を離れた場合、業務の停止や品質の低下を招く恐れがあります。ある人しか出来ない業務を防ぎ、職場や組織としてのノウハウにする必要があります。マニュアルを作るのではなく、皆がわかる言葉や表現で仕事を明らかにし、組織や企業の強みに変えて行く取り組みです。

③ そもそもBCPとは何?

 BCPは、Business ContinuityPlanの頭文字で、日本語で「事業継続計画」と訳されます。大地震等の自然災害、感染症、テロ、事故、オリンピック、サプライチェーンの途絶、 突発的な経営環境の変化、といった不測の事態において、事業を中断させない、もしくは中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画のことです。
 BCPについて紹介する書籍などでは一般的に「災害が発生したら、まず自分の身の安全を確保し、連絡網を通じて社員の安否確認を行い、社長や会社幹部をメンバーとする災害対策本部を設置。メンバーは会議室などを災害対策本部室として情報の収集にあたり、状況を判断する。その上で災害対策本部の指示で事業の復旧にあたる」と書かれています。
 私見ですが、「災害対策本部設置」という考え方は政府や自治体の防災対策の考え方であり、企業は、幹部や上司の指示を仰ぐのではなく、従業員一人ひとりが自分の役割を認識し、社長や幹部の指示を受けなくても行動できる組織を目指した活動を日々行っています。BCPを防災対策として捉えるのではなく、「事業継続計画」を通じた経営戦略として取り組むことが必要です。 BCPは事業を継続するため、従業員が一丸となり、自社の強みを理解し、「強み=こだわり」を守り繋ぐための活動です。

事業の成果

 台風15号により過去に経験のない自然災害による被害を県内の多くの企業が経験しました。その最中での事業継続計画策定への取り組みは、講座(全5回)の回を追うごとに参加企業が増え、自社の基盤強化にとどまらず、地域の連携の必要性・重要性を参加者自身が実感しました。

今後の事業展開・展望

 BCPは被害や被災といった暗いイメージが強くあり、「作る手間ばかりで、役に立つのかどうかわからない」「BCPなんて、やるだけムダ」という意見が多く聞かれます。
 昨春からの新型コロナウイルスに対しても、見える災害として対策を検討実施し、事業の継続や事業の拡大を行っている企業や組合は全国に少なくありません。私も多くの企業に対し、事業継続計画策定の指導を通して、実行できる施策と現状での課題と、その課題への対処法を考えました。
 各地で起こる地震、水害、台風等の自然災害のみならず、様々な分野における危機管理が企業等に求められる今、これらの危機への「対応」に終わらず、個々の能力に依存した仕事を洗い直し、共有することで、企業全体で事業をいかに継続させていくかにフォーカスする取り組みが事業継続計画の策定です。
 本事業を通じて、各企業が策定した事業継続計画は、企業の財産となり、日々の業務にも活かされ、今後も活動が文字通り継続し、その内容もブラッシュアップされてゆくことを期待します。

(事業承継・事業継続アドバイザー 佐藤 雅信)


『中小企業ちば』令和3年3月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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