テーマ : 今求められる事業承継の基礎知識 ~事業承継「はじめの第一歩」を踏み出そう!~

補助事業名 平成30年度連携組織活性化研究会
対象組合等 千葉県解体工事業協同組合
  ▼組合データ
  理事長 小松 隆弘
  住 所 千葉市中央区本千葉町10-20 DIK マンション609 号室
  設 立 昭和60年
  業 種 解体工事業
  組合員 43人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427)
専門家 事業承継センター株式会社
取締役 石井 照之(中小企業診断士・事業承継士)

背景と目的

 事業承継は待ったなしの経営課題です。中小企業庁によると、今後10年の間に、70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人、うち約半数の127万人(日本企業全体の3分の1)が後継者未定です。その中には黒字の企業もあります。
 日本企業の多くで経営者の高齢化が進んでおり、事業承継はすぐにでも取り掛からなくてはならない経営課題なのですが、日々の経営に忙しい中小企業の経営者にとって、「わかっていても後回しになりがち」なのです。
 そこで、組合員の方に事業承継に関する基本的な知識を学んでいただき、最初の第一歩を踏み出していただくために、全3回で「事業承継研究会」を実施しました。

事業の活動内容

①目標の設定
 事業承継を進めていただくために、「事業承継の本質を理解してもらうこと」と、「ご自身の事業承継をイメージしてもらうこと」の2点を目標に設定しました。
 1点目の「事業承継の本質を理解していただく」ために、実際の事業承継支援事例を題材にしながら、譲る側の経営者の気持ちや、継ぐ側の後継者の不安などを解説しました。
 2点目の「ご自身の事業承継をイメージしてもらう」ために、経営者の方には、後継者に伝えたいメッセージを考えていただきました。また、後継者の方には、継いだ後の会社の未来について考えていただきました。
②研究会の実施(全3回)
 研究会は10月を1回目とし、12月まで毎月1回ずつ、計3回実施しました。
【1回目:10月17日実施】
 事業承継の背景や現状を説明したうえで、事業承継の本質について解説しました。
 事業承継の本質とは、事業承継時に人(経営者)と会社が切り離されることです。多くの中小企業では、経営者と会社は一心同体です。社長が株式を100%保有していたり、自身が保有している土地を事業のために提供していたりすることをイメージするとわかりやすいでしょう。今の経営者が永遠に会社を経営し続けるのであれば経営者と会社が一心同体でも構わないのですが、人には寿命があるためにそれは叶いません。いつの日か、後継者に会社の経営を渡す日が来るのですが、それは、自分自身の一部を渡すことに他ならないため、痛みが伴います。そのことで悩む経営者もいるので、痛みを感じることは普通であることを伝えて安心してもらいました。
 一方、後継者は先代経営者の経営を引き継げるか、漠然とした不安を感じています。また、引き継ぐ日が決まっていないと(経営者から正式に伝えられていない)、それも不安を醸成する要因になっています。自律した立派な後継者もたくさんいますが、多くの後継者は「自分が継いでよいのだろうか?」と感じているものです。そこで、不安は後継者に共通することだと伝えて安心してもらいました。
 また、会社の見えない力(ソフトな経営資源)の引継ぎ方についても解説しました。
【2回目:11月26日実施】
 2回目は、事業承継時に避けて通ることができない、資産の承継について話しました。退職金、株式の移転、事業用資産の扱い、経営承継円滑化法等を説明しました。
 例えば、株式の渡し方には、「売買」、「贈与・相続」、「経営承継円滑化法の課税の特例制度を活用」という3通りがあり、特に、平成30年度に改正があって使いやすくなった、「経営承継円滑化法の課税の特例制度」を中心に勉強しました。課税の特例制度とは、一定の要件に合致する場合に、株式を渡す際にかかる贈与税や相続税の納税が猶予される制度です。私自身が実際に申請を行った経験から、何に気をつけるべきで、何が大変かといった実務面を解説しました。また、課税の特例制度を使うべき企業と使わなくてもよい企業の判断基準などもお伝えしました。
 さらに、課税の特例制度だけを利用すればよいのではなく、遺留分に関する民法の特例も併せて申請しないと、相続時にトラブルが発生する可能性があることも伝えました。私自身が支援した中小企業で、遺留分の民法特例に関して、後継者のご兄弟からの合意が得られなかった失敗事例をお伝えし、経営者が元気で影響力があるうちに家族会議を開いて、会社の株式をどのように処理するかを話し合ってほしいと伝えました。
【3回目:12月14 日実施】
 3回目は、事業承継計画書の作成ワークを行いました。事業承継計画書とは、事業承継する日を決めて、それまでにやるべきことを記載していくものです。研究会では、事業承継計画書を完成させることを目標にするのではなく、少しでもよいから書いてみることを目標にしました。事業承継計画書を作成することが目的ではなく、事業承継を現場で進めることが目的だからです。
 経営者には、後継者に何を伝えたいかを言葉にするワークを行いました。伝えたいことは、経営理念と同じだと考えていましたが、書いていただくと、理念とはまた違った思いがあふれてくることに気づきました。
 また、事業承継を機に、経営革新が進むことをお伝えしました。若い後継者が自らの意思で新しいことに取り組み、成果につなげている事例を複数お伝えし、事業承継は会社を成長させるきっかけになり得ることを理解していただきました。そのうえで、後継者の方には、会社を引き継いだ後、何をやりたいかを言葉にしていただくワークを行いました。

事業の成果

 3回にわたる研究会を通して、事業承継の準備をすることの大切さを実感していただきました。また、実際に事業承継計画書を書き込んでもらうことで、事業承継が少しかもしれませんが、進んだことを実感しました。
 時間は止まることなく進んでいきます。事業承継のタイミングが遅くなれば、後継者も歳を取ります。新しいことにチャレンジするチャンスも少なくなっていきます。ですから、事業承継の準備に取り掛かるのは早い方がよいのです。

今後の事業展開・展望

 事業承継の相談に訪れる経営者がおっしゃることは、「事業承継の大切さはわかるが、何から始めたらよいかわからない」、「後継者がいない」ということです。そして、相談が終わった後におっしゃるのは、「もっと早く相談に来ればよかった」、「誰に相談すればよいかわからなかった」ということです。
 連携組織活性化研究会の活動の中で事業承継について学んでいただくことで、多くの経営者が事業承継のことを考えるきっかけとなり、実際に事業承継が進んでいくことが期待できます。中小企業団体中央会や、商工会・商工会議所等の支援の窓口に相談に来るきっかけになることでしょう。今後、多くの組合で事業承継の勉強会が行われることを期待します。

(中小企業診断士 石井 照之)


『中小企業ちば』令和元年7月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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