テーマ : 今求められる労務管理の基礎知識

補助事業名 平成30年度連携組織活性化研究会
対象組合等 千葉県自動車車体整備協同組合
  ▼組合データ
  理事長 長嶺 隆路
  住 所 佐倉市宮本字手洗199
  設 立 昭和58年3月
  業 種 自動車整備業
  組合員 121人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427)
専門家 社会保険労務士法人 ハーモニー
山崎裕樹(特定社会保険労務士)

講習会開催

 働き方改革関連法案の施行を2019年4月に迎え、いよいよ労務管理の整備が待ったなしの状態です。コンプライアンス遵守に及び腰だった中小企業ですら、主に次のような要因で懸命に取り組まざるをえなくなりました。まずは労働者数の変化の問題。総務省の統計資料上、日本の人口は2010年を境に減少傾向となります。2010年には63.8%だった生産年齢人口割合が、2060年頃に50.9%。高齢化率は、2010年に23%だった数字が39.9%になると予想されています。つまり、働く労働者総数は減少し、その中に占める高齢者の割合は増えます。これまでの、フルタイム労働者を中心とした仕事のスタイル、労務管理手法にも変化が求められると言えます。続いて、労働に対する意識の変化。今までは問題視されることがあまりなかったような、曖昧な労働条件や職場の問題に対し、はっきりと不満を申し出る労働者が増えてきました。結果として労務トラブルも増加の傾向です。厚生労働省が毎年6月に公表している「個別労働紛争解決制度の施行状況」の統計によりますと、直近の10年間は毎年相談件数が100万件を超えています。民事上の個別労働紛争で多いのが、いじめ・嫌がらせ。ここ10年で右肩上がりとなっています。労働環境の改善が進まないことや人間関係の複雑化が原因の1つかと思われます。以上の要因から、適正な労務管理が安定的な企業経営に益々欠かせなくなってきています。では、中小企業における労務管理について、具体的にどんな対応が必要で、どこから手をつけていけばよいのでしょうか。その回答のヒントになればと思い、今回、『労務管理の基礎知識』と題してお話をいたしました。前半①は就業規則の見直し、後半②は実務対応がテーマです。ポイントをピックアップし、ご紹介します。

事業の活動内容①

① 労務トラブル防止に対応した就業規則の見直し例 
 就業規則は労務トラブル防止に必要になります。入社から退社まで、それぞれの場面で、問題になりやすい点をまとめてみました。
 入社のトラブル防止対応。まず入社時に提出すべき書類の確認です。資格を使って仕事をしてもらうのであれば、その資格証明書、車を使って仕事をしてもらうならば、免許証などは手間を惜しまず確認してください。職務経歴書の記載内容や面接の言動等で少し気になる方がいれば、前職で発行する退職証明書を取ってもらい、退職理由などを確認する会社もあります。続いて試用期間中の能力不足対応です。試用期間は、会社も社員もお見合いのようにお互いをよく知る期間となります。就業規則で本採用基準を明確に定め、よく見定めてください。もし、当初の期間で判断できない場合、試用期間を延長する事も選択肢の1つです。
 最近、特に相談が多いのが、ハラスメント・メンタル不調対応です。順にご説明します。まずはハラスメント対応です。今、最も対応が難しいのはパワーハラスメントです。厚生労働省はパワハラの6類型を示し、事例を紹介して防止を促していますが、そもそも当該行為が違法性のあるものなのか、その判断自体、難しいものです。
 次にメンタル不調者への対応。 ポイントは、休職を繰り返す社員対応です。復職後、しばらく就労できても、再び休みがちになることがあります。復職後、短期間で再発した際には、前回の休職期間の残日数の範囲で、再休職とします。そのことを就業規則に定めておきましょう。復職の判断基準が曖昧で困ることも多いです。就業規則には条件を明確に定めておきましょう。例えば、単独で通勤できる、所定労働時間中は居眠り等なく最後まで就業できる等です。内容を復職前に本人と確認しておくことで、復職後に問題が生じても、対応がしやすく、現場の混乱を防げます。
 退職時のトラブル防止対応。
 退職届の提出ルールを定めているかを確認します。まず時期の問題。退職日の直前に辞めるといわれても後任探しができず困ります。1ヶ月前の申出を明記しておきます。後で言った言わないのトラブルを防ぐため、退職届の提出をお勧めしています。最近では、退職の申出が金曜日になされたものの、土日に家族に反対され、週明けに退職を撤回するような事例がありました。退職届を受け取ったら、速やかに文書・メール等で受領した事実を残すなどし、適切に承認プロセスをたどるよう、現場の上長に徹底していただいて下さい。
 近時の法改正等に対応した就業規則の見直し例
 仕事と育児・介護を両立させるべく、2017年1月、10月に相次いで、改正された育児介護休業法が施行されました。育児休業者は、最長でお子さんが2歳まで、育児休業期間の延長が可能となりました。また介護休業は対象家族1人につき、3回を上限として、通算93日を分割して取得ができるようになりました。所定労働時間の短縮措置は介護休業とは別に適用開始から3年の間で2回以上の利用が可能に、さらに所定外労働の免除を介護終了までの期間について請求できる権利が新設されました。両立支援制度は今後もさらに拡充されるでしょう。

事業の活動内容②

② 労務トラブル防止に対応した労務管理・実務ポイント
 ◆問題社員対応
 一部の社員の問題行動は、組織の輪を乱すのはもちろん、他の社員のモチベーションを下げるリスクがあります。また、問題社員をそのまま放置すれば、経営層に対する信頼感も著しく損なわれます。小さなことから実践していくことを提案します。例えば業務命令違反があったら、違反である旨を伝え、その都度、書面に残すようにしましょう。当事者との面談時には本人の言い分も書かせたうえで、その問題行動の改善策を、自ら具体的に挙げてもらうのがよいです。本人が、その指導すら無視する場合もありえます。その時は、指導票に次のような記録を残して下さい。【指導したが、本人はその事実を認めず、改善行動もない】問題行動が再三、繰り返され、懲戒処分の検討に及ぶ際には、第三者の目を意識して下さい。残された書面、積み重ねた指導の事実は大事です。処分のプロセスにおける客観性をどう担保するか、問題社員対応の重要なポイントです。
 ◆労働条件通知書(雇用契約書)労働者が自分の労働条件を改めて確認できる書類であり、労務トラブルになってしまった場合には、この書類の内容が第三者の目に触れることになります。項目の有無からチェックし、内容を十分に確かめて作成しましょう。有期契約労働者の場合には、更新の有無や更新条件は必須です。パートタイム労働者であれば、昇給・賞与・退職金の有無、相談窓口の記載まで必要になります。
 最近では、特に固定残業手当を定める会社への指導が増えています。採用の際、ハローワークに求人票を出す会社もあるでしょう。その際、若者雇用促進法や職業安定法に則り、記載項目が細かく指定されるようになりました。その手当には残業何時間分の割増賃金が含まれているか、その時間を超過した場合、差額精算は行われるのか、明確に示さなければなりません。

当組合会員の学び/今後の課題

 少なくとも1年に1回、就業規則等のチェックをお願いします。労務トラブルが起きる前に事前予防できるのが手間・時間・費用の面からもベストです。法改正・コンプライアンス情報を適宜確認の上、自社に合わせた実務対応までつなげていく。本研修がそのようなお手伝いになれば、幸いです。

(特定社会保険労務士 山崎裕樹)


『中小企業ちば』令和元年5月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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