テーマ : 中小企業の危機管理と連携組織の果たすべき役割~東日本大震災を踏まえて~

補助事業名 組合事務局強化事業
対象組合等 ▼組合データ
  事業協同組合 638
企業組合 40
  商店街振興組合連合会 1 火災共済協同組合 1
  協業組合 13 協 会・ そ の 他 26
  信用協同組合 3 商工組合 18
  賛助会員 4 協同組合連合会 10
  商店街振興組合 26 中央会会員 780
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(TEL 043-306-2427)
専門家 特定非営利活動法人 危機管理対策機構 理事・事務局長 細坪 信二

背景と目的

■企業を取り巻く外部環境の変化に対しても考慮する戦略

 

 東日本大震災、タイ洪水等のような外部からの脅威に対する災害対策や事故対策等だけでなく、経営者の急死・突然取引先から取引中止の通告、レアアース問題のように原料が入らない、進行する円高などのビジネス環境の変化に対して「事業継続」が求められています。また、今回の震災において、取引先の中断により、生産を停止する事態に見舞われたことから、今後は、取引先から事業継続性に関する要求が取引上の要件として位置づけられるかもしれません。
 企業は、いかなる事態に見舞われようとも、適切に対処するための「生き残り(事業継続)戦略」を持つべきです。複数の選択肢を事前によく考え、生き残り(事業継続)戦略を構築しておくことにより、災害、突発事件・事故、ビジネス環境の変化等の大混乱した状況において意思決定をする際に役立ちます。生き残り(事業継続)戦略には、大規模な災害発生後や大幅なビジネス環境の変化によって、物事が「通常」には戻らないという事実を考慮すべきです。自分の商品・サービスを提供できず、自分の顧客が戻って来ない場合もあります。生き残るためには、同時にすべてを元通りに「復旧」するのではなく、復旧の優先順位と新たに優先的にするべきことを整理した「生き残り(事業継続)戦略」を設定するべきです。
 一方、中小企業は、「想定」を最悪の状況から入ると、必ず最後にフリーズします。「想定」に対する被害が生じ、その被害を軽減するために「対策」が必要となり、最終的に資金がない中で有効な対策をすることができません。施設が老朽化しているので耐震化をしなければならないとわかっていても、現実には対策費を捻出することができません。大手企業のようにお金をかけて自前で複数の拠点を準備する方法はありますが、お金をかけずに代替生産をする方法としてライバル会社と協定を締結し、困ったときは「お互いさま」に協力し合うという「生き残り(事業継続)戦略」が中小企業の事業継続には不可欠と考えます。
 そのためには、単独で現地復旧をして生き残るという方法では、資金面から見ても難しいという認識のもと、自らで現状を変えようという発想の転換と意識を変えることが一番番大切なことです。

事業の活動内容

■日 ─ タ イ お 互 い 事 業 継 続(Otagai B.C.)の背景

 2011年3月11日東日本大震災発生後、「お互いさまBC連携ネットワーク」を推進していた新潟県が、被災した岩手県、宮城県、福島県に対して、困ったときは「お互いさま」の精神で、代替生産を新潟県の企業で一時的に受け入れる体制を整え、支援活動を行いました。
 「お互いさまBC連携ネットワーク」とは、困ったときは「お互いさま」の精神で、いざとなったときに仕事の融通をし合いBC(事業を継続しあえる関係)で、日ごろの仕事の融通関係や口約束ではなく、業務委託協定書のみならず、守秘義務、品質保証等の契約書に基づき、対外的に公表できる状態を構築しておき、取引先に対して事業継続性の信頼性を確保する。発展的には、日ごろから、既存の仕事を効率化の融通だけでなく、技術交流を含め+アルファの相乗効果による業務拡大にも活用できる経営戦略です。

■「お互いさまBC連携ネットワーク」の背景

  1. 横浜市BC普及モデル事業スタート「横浜市内の鍍金会社を中心に勉強会」を実施しました。
  2. 羽後鍍金、大協製作所の「お互い様連携」の調印をしました。
  3. 神奈川県メッキ工業組合で組合としての災害時応援規定を理事会で承認しました。
  4. 広域災害を想定して神奈川県外との協定先を模索しました。
  5. 新潟県BC普及モデル事業として「横浜市の「お互い様連携」での勉強会」を実施しました。
  6. 新潟県鍍金工業組合内の有志で勉強会を実施しました。
  7. 新潟県として東日本大震災被災企業に対する「お互い様BC連携ネットワーク」支援をスタートしました。
  8. 「お互い様BC連携ネットワーク」協定書に対して両組合の理事会で承認しました。
  9. 神奈川県メッキ工業組合と新潟県鍍金工業組合の組合として「お互い様BC連携ネットワーク」協定を調印しました。
  10. 新潟県が東日本大震災の被災した企業を支援するために県内企業に働きかけ「お互い様BC連携ネットワーク」を通じて代替生産等の支援をしました。

事業の成果

「お互い様BC連携ネットワーク」の実例▽愛和産業(水産加工業福島県南相馬市)

【被災状況】原発事故に伴い社員全員が新潟県に避難したことで事業が中断した。

【被災程度】甚大被害(立ち入りできない)

【事業継続戦略の種類】②スタンバイ状態の整った代替施設の準備

【事業継続内容】「お互いさま」の精神で、新潟県内企業等が県外の被災企業を支援する取組により、新潟県商工会連合会を通じ、見附商工会の仲介で、見附市内の加工場物件を紹介・提供により、5月26日から事業を再開した。

■日─タイお互い事業継続(OtagaiB.C.)のパイロットプロジェクト

2011年10~11月タイ大洪水発生後、東日本大震災で活用された、新潟県が県内企業に呼び掛けて構築した「お互いさまBC連携ネットワーク」をモデルにタイにおいても被災した中小企業の事業継続を互いに支援するネットワークづくりができないか、JICA専門家のアドバイスを得ながらタイ政府で検討が進められました。
 2012年3月1日タイ政府主催のお互い事業継続フォーラムがバンコクで開かれ、工業団地等の賛同を得てタイ工業省が推進母体となり、日本との「お互い事業継続(Otagai B.C.)」プロジェクトを進めていくことを正式表明しました。5月日本での「お互いさまBC連携ネットワーク」の創設者である私をタイ工業省が「お互い事業継続(Otagai B.C.)」の顧問に迎え入れ、パイロットプロジェクトがスタートしました。
 8月に新潟で米関係が集まる産官学NPOの産業クラスターである「ライスバレー」がタイに訪問しタイ工業省パスウ局長を交え、日本のライスバレーとタイ側の米関係者とで「お互いBC」パイロットプロジェクトを進めることで合意し、タイナコンサワン県(タイ米どころ)商工会議所会頭と「お互いBC」パイロットプロジェクトを進めることで合意しました。

今後の展望・期待

■日 ─ タ イ お 互 い 事 業 継 続(Otagai B.C.)のメリットとして

  1. 自社が甚大な被害に見舞われても生き残るための事業継続戦略が構築できる。
  2. 事業継続に関して取引先から信頼を得られる。
  3. 新しいビジネスチャンスや顧客獲得につながる体制ができる。
  4. 「儲かる」▽中小企業にとってBCPは、災害対策や金食い虫ではなく、日─タイお互い事業継続(Otagai B.C.)等を活用して、成長戦略として、経営戦略と連動する形のBCPを構築していくことをお勧めします。

 現在、日本の県レベルや商工会議所で地元中小企業の海外進出を支援する活動としてタイに視察する企画が多く、今後、タイ工業団地と千葉県下の工業団地や商工団体や協同組合等の団体が連携してタイとの「お互い事業継続(OtagaiB.C.)」を通じて成長戦略として海外でのビジネスを支援する体制づくりができれば幸いです。
(細坪 信二)


『中小企業ちば』平成24年10月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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