テーマ : 二輪業界の今後の展望及び二輪販売店の経営方法について

補助事業名 平成28年度青年部研究会
対象組合等 千葉オートバイ事業協同組合
  ▼組合データ
  理事長 土居 光夫
  住 所 千葉県船橋市宮本1 - 21 - 8 - 601
  設 立 平成15 年10 月
  業 種 二輪自動車小売業
  会 員 82人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427)
専門家 事業承継センター株式会社 代表取締役CEO 内藤 博(事業承継士・中小企業診断士)

背景と目的

 国内の二輪車(オートバイとスクーター)のマーケットは大幅な縮小が続いている。ピークには三百万台を超える需要があったが、現状は1/8まで減少している。
 また毎年誕生する新規免許取得者数も13万人程度で推移し、新車を購入する割合も35%ほどで、大半が代替えである。
 さらにユーザーの高齢化も大きな問題で、ヘビーユーザーである団塊の世代の需要が一巡すると、次の山は40代に差し掛かる団塊ジュニアに焦点が当たるが、この世代は子育ての時期にあたり、高額な新車購入には向かわない。
 オートバイ市場の中でも特に疲弊しているのが新車専門の小売店である。完全にオーバーストア状態が続いており、生き残りのための必要販売台数を販売実績として維持できているショップは1/2ほどと言われている。
 こうした小売店の現社長が、事業承継のタイミングに差し掛かっており、自分の引退と後継者への引継ぎ、店舗の維持と廃業のいずれかの選択にさらされている。
 そこで、千葉オートバイ事業協同組合は、事業承継の専門家を招聘して事業承継研修会を実施することで、組合の構成員を維持しつつ、業界の正常発展を学ぶ機会を創出した。

事業の活動内容

①経営分析。二極化の進展
 このような厳しい状態の中でも元気に活発な商売を展開している販売店も多数存在しているが、その割合は減少傾向にあり、とりわけ経営者が高齢化している店舗では黒字割合が大きく減少している。
 また、赤字が続く企業では、後継者不足も顕著で、若い後継者の人生をスタートから借金漬けにして良いものかと、悩む現社長も多い状況である。
 さらに高学歴化・進学率の向上に、少子化の影響もあり身内に後継者を見いだせない販売店も多く存在する。その比率は過半数を超えており、65%近い販売店で、後継者が不在であるか、誰にするかを決めかねている、というアンケート結果になっている。
②利益の出ている企業から学ぶ
 元気な企業を見ていくと、「経営の見える化」が進んでおり、原価管理や、顧客データベースの構築なども行われていて、将来需要も掘り起こしが進んでいる。外国車の販売やアクセサリー販売なども手掛けており、扱い商品の多様化と保守点検メンテナンス、レンタルなどの「サービス売上」の比重が上がっている。
 逆に、赤字基調の企業では、従来からのメーカー販売会社(卸)に、商材の品ぞろえから、販売促進まで頼り切っている場合が多く、独自性や付加価値の追及などが考慮されていない状況であった。
③事業承継研究会が掲げるテーマ
 そこで、単独店舗では実現できない大枠としての講習として、事業承継をテーマとした、全体的な事業承継入門研修を行った。
 さらに先行する東京オートバイ事業協同組合の事例を学びながら、組合活動の必要性と、社会との共存共栄を目指すモラールアップの重要性を学んだ。
 さらに行政や政治の力も借りて、オートバイ駐車場の整備と収容台数の増強、原付二種と言われる125㏄の有用性を訴える動きなども、重要な組合活動に加えている。その結果、後継者の目が先代の経営する事業に向くことで、注目が集まり、後継者難を突破する契機となっている。
 現社長世代が考えるバイク業界の復活は、バブル期以前のブームの再来を願う、「他力本願」な考え方が多く見られる。
 それに対して、若手経営者や後継者が考える業界の未来は、彼らに成功体験がないために、考え方が堅実であり、整備やチューニング技術を売る「サービスショップ」的な経営を目指すことが多く見受けられる。
 まさに経営者感覚の差と、生まれ育った時代の違いを表している。
④千葉オートバイ事業協同組合としてのロードマップを作成
 事業承継は時代の大きな流れである。戦後のベビーブーム世代が、いよいよ引退の時期を迎えているのだが、彼らは焼け野原から復興を果たし、高度成長時代をけん引して国民生活の向上を果たし、その結果としてオートバイという趣味性の高い乗り物をブーム現象が起きるほどの速さで普及させてきたのだ。
 そうしたカリスマ世代を簡単に引退に追い込むことはできない。その結果、組合役員や理事などの要職も古い世代に固められており、後継者世代への組合運営の移管も遅れる一方になっている。
 そこで、名誉職は現社長世代に譲ることとして、現場の実務と未来構築のために若手中心のシンクタンクを造り、そこからアイデアを構築することで、理事会を動かしていくモデルを採用することとなった。

 事業の成果

 オートバイ販売店の組合活動は共同購買や安全運転支援活動などの、社会性の高いものが多く含まれており、行政とのパイプも太くなっている。
 活動の中心は後継者へと移っていく段階を迎えており、地域の青年会や消防団活動などを通じて、健全な二世三世が育ちつつある。
 さらに彼らが成長していくためには、同様の境遇を持つ後継者同志としての「切磋琢磨と学びの機会」が必要である。
 組合活動の重点を組織の若返りに置くことも必要で、現社長の層がこぞって若手へのバトンタッチを行う環境づくりをしていかねばならない。
 具体的には若手を中心として、従来の考え方から飛躍していく、経営革新が求められているが、そうしたきっかけとしても、今回の研修会が、事業承継を本気で自分の事として考える、一つの場づくりとなっている。

 今後の事業展開・展望

 千葉県は大きなサーキットがあるわけではないが、バイクを楽しむ環境としては優位な場所である。ツーリングはバイクで旅に出ることを意味するが、目的地は観光地である必要はなく、一杯のカツ丼やラーメン、海鮮丼を仲間と一緒に味わうだけでも、十分な目的性をもたらす。
 さらに風光明媚な海岸線や、海ほたると言った道路設備の充実もあり、広く関東圏からの集客が可能で、観光立県を目指す点からも、再検討されるべきである。
 問題は組合活動がダイレクトな店舗売り上げ高にリンクしづらいという点である。長期的視野に立てば、インフラの整備、中でも住宅密集地や繁華街での駐車場問題は喫緊の課題と言える。
 一部の行政では原付二種までは、自転車駐車場への入場を許可している。こうした柔らかな発想による通勤通学の足としての需要が補足されていけば、地域の面的な交通の増加による経済活動の向上にもつながっていく。
 その末端である顧客との接点を担っているのが、オートバイ販売店であることから、業界を支える需要拡大のためにも、コンサルティングセールスやITを活用したデータベースマーケティングなど、後継者が挑戦すべき経営改革が待ったなしの状況と言える。
 事業承継は単なる代表者の交代ではない。技術とノウハウを持ったベテランがバックサポートに回り、新しい考え方を持つ若手経営者が挑戦的な革新にチャレンジしていく。そのとき一時的に起きる経営の脆弱性をカバーするのが、組合の持つ相互扶助の考え方や、人材育成の能力を生かすことに他ならない。今こそ組合の力が試されるのである。

(内藤 博)


『中小企業ちば』平成29年7月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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