テーマ : 組合員企業の経営基盤強化に向けて

補助事業名 平成27度組合等新分野開拓支援事業
対象組合等 千葉県印刷工業組合
  ▼組合データ
  理事長 吉田 良一
  住 所 千葉市緑区古市場町474 - 251
  設 立 昭和34 年2 月
  業 種 印刷業
  会 員 35人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427)
専門家 ブライター・レイター 山下 潤一郎

背景と目的

 内閣府「消費者動向調査(平成28年3 月実施調査結果)」(2016年4月8日発表)によれば、2016年3月末時点における通信端末の国内世帯普及率は、パソコン79.1%(前年同月比1.1ポイント増)、スマートフォン67.4%(6.8ポイント増)、タブレット型端末32.0%(3.7ポイント増)でした。
 これは、Web経由での情報取得はすでに広く行われており、またその端末の多様化も急速に進んでいることを示しています。こうした状況を背景に、印刷物の需要は減少を続けています。また、経済状況もなかなか大きく好転しないことから、受注時の価格競争も激しい状況が続いています。
 しかし、一方で新しい印刷サービス機会は増えつつあります。例えば、受け取る相手ごとに内容や表現が最適化されていて、受け取った方が「特別感」を感じる印刷物を生産する仕事が挙げられます。また、個人情報に関わる印刷物を生産・送付する仕事も増えています。
 Webを絡めることで、お客様のコミュニケーションをさらに効果的・効率的にする支援も新しいサービス機会です。Webは、中小印刷会社にとって必ずしも「敵」ではないのです。情報発信やブランディングにおいても、Webは中小企業の味方となります。
 中小企業が新しい市場機会を開拓して売上を伸ばしたり、自社のブランド力を高めて過度な価格競争から脱却したりするためには、会社としてマーケティング力を高めることが必要不可欠です。本事業は、千葉県印刷工業組合員のマーケティング力強化を目的として実施されました。

事業の活動内容

○お客様を分析する○

 マーケティング力強化は、自社のお客様を分析していくつかのグループに分け、各グループの特徴=「ペルソナ」を明確にするところから始まります。グループ分けの際には、提供している印刷物・印刷サービスの種類に加えて、顧客企業の地域・業種・規模・担当者の所属部署やタイトル(肩書き)など、さまざまな要素を考慮します。
 確かに、顧客企業は1社ずつ異なっています。しかし、グループに分けてそれぞれのペルソナを明確にすると良いこともたくさんあります。例えば、グループごと(そのグループに属しているお客様も含めて)の特徴が明確になり、全社で共有しやすくなります。その結果、効果的・効率的にお客様グループごとのサービスを見直して最適化したり、新規サービス機会を見つけたりすることなどに、全社で取り組み易くなります。
 続いて、ペルソナをもとにお客様グループごとの課題や期待、気持ちなどを想像します。その際、「お客様のお客様」に注目します。「お客様のお客様」の立場から考えることで、これまでとは違った角度(つまり、印刷会社視点とは異なる角度)からお客様の課題や期待、気持ちなどを検討できます。そして、ここから見つかった気づきは、新規サービスの開発に大いに役立ちます。

○新規サービスを開発する○

 マーケティング力強化の第2ステップは、新規サービス開発です。全くの新規サービスを開発することもありますし、既存サービスの改善というケースもあります。新規サービスの開発に当たっては、「C X 」(Customer eXperience:顧客体験)に注目します。
 例えば、販促用店頭POPを納品した後のCXを考えてみましょう。期待以上の効果が出ていることもあれば、そうではない場合もあります。お客様は、期待以上の効果なら「良い体験」、期待以下なら「悪い体験」をしています。チェーン店の場合、ある店舗では店員さんが忙しすぎて、そのPOPを掲出できていないかも知れません。この場合も、良い体験をしているとは言えません。
 印刷物発注者にとっては、納品された印刷物を実際に活用する場面が大事なのです。しかし、納品後のCX向上 = より良い体験の提供に注目している印刷会社はそれほど多くありません。上記のような場面で、悪い体験をフォローしたり、悪い体験を良い体験に転換したりできれば、お客様との関係は一層深まるにも関わらず、です。
 小回りをきかせてCX向上を実現できるのが、中小企業の強みでもあります。CX向上は、中小印刷会社にとって新規サービス開発のキーワードなのです。

○お客様を巻き込む○

 メディアをフル活用してお客様(潜在顧客を含む)を新規サービスに巻き込むことが、マーケティング力強化の第3ステップです。メディアの分類方法に「トリプルメディア」というものがあります。これは、メディアを以下の3種類に分けるというものです
● ペイドメディア(Paid Media):広告(有料)
● アーンドメディア(EarnedMedia):SNS など(無料)
● オウンドメディア(OwnedMedia):自社サイトなど
 これら3種類のメディアを組み合わせて活用することで、中小企業でもお客様を巻き込む力を高めることができます。自社サイトを持つ印刷会社は多く、FacebookやTwitter、LINEなどのSNSを活用する印刷会社も増えています。Web広告も、低価格から利用できます。
 Webでの情報発信に「リアル」でのマーケティング活動も絡めることで、巻き込む力はさらに強まります。例えば、イベントや展示会に出展したり、自社でセミナーやイベントを開催したりすることも有効です。印刷会社らしく、自社の名刺や会社案内、新規サービスのカタログなどの印刷物を効果的に使うことも大切です。
 メディアを活用する際、ブランディングを意識することも重要です。御社がお客様にとって「特別な存在」であることをご理解いただくことで、過度な価格競争から抜け出せるからです。メディアをフル活用することは、そうした「特別感」をお持ちいただくことにも役立ちます。

今後の事業展開・展望

 中小印刷会社がマーケティング力を強化するためには、「お客様を分析する」「新規サービスを開発する」「お客様を巻き込む」という3つのステップを一連の流れとして全社で繰り返すことが求められます。繰り返すことでマーケティングについての理解や知見が深まり、身についていくからです。
 今回の事業では触れることができませんでしたが、課金対象や課金方法の見直しを通じた「マネタイズ力の強化」に取り組むことも、中小企業の売上・利益増大に有効です。現在、多くの印刷会社では、印刷物に受注ベースで課金する「モノに都度課金」というビジネスモデルを採用しています。今後、印刷会社がモノ以外のサービスに課金したり、月額課金のように継続的に課金したりすれば、ビジネスモデルを進化させることができます。
 また、組合員同士がマーケティングでも協業できる可能性も見えてきました。得意とするサービスや顧客グループのペルソナなどが重複しない(あるいは、重複が少ない)組合員が少なからずいることが、今回の事業を通して分かったからです。今後は、こうした協業を通じてマーケティング力を強化することも考えられます。
 中小印刷会社が売上・利益を伸ばすためにできることは、まだまだたくさんあります。千葉県印刷工業組合はマーケティング力強化を通じて、各組合員企業の活性化し、さらに組合全体や千葉県の活性化に大きく貢献いたします。
(山下 潤一郎)

『中小企業ちば』平成28年7月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)
 

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