テーマ : 従業員の職場定着率向上を目指して、経営者が取り組むべき課題について

補助事業名 令和元年度連携組織活性化研究会
対象組合等 銚子水産加工連協同組合
  ▼組合データ
  理事長 池永 清
  住 所 銚子市前宿町852
  設 立 平成11年4月
  業 種 水産食料品製造業
  組合員 22人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427)
専門家 社会保険労務士法人 ハーモニー
森本哲郎(特定社会保険労務士)

背景と目的

 2019年4月1日、働き方改革関連の法改正がいよいよ施行されました。「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面する日本において、課題解決に向けた大きな転換点と言えます。
 法案成立までの間、「時間外労働の上限規制」「高プロ」「有給休暇の取得義務」「同一労働同一賃金」といったキーワードが盛んに取り沙汰され、紆余曲折もありました。しかし、働き方改革が目的とするところは、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることであって、単なる規制強化ではありません。
 銚子水産加工連協同組合の加盟企業様は、昨今の人材確保難もあり、外国人技能実習生を多数受け入れておられるとのことでした。技能実習制度を巡っては、過去に労働法令違反が散見され、批判の高まりを受けて、コンプライアンス重視の法改正が進みました。2019年4月からは新たな在留資格「特定技能」制度もスタートし、活用を視野にいれておられると聞きます。
 人材確保に課題を持つ地域・産業にあっては、特に従業員の職場定着率向上は喫緊の課題であり、前述の状況下にあっては労働関係法令順守は必須の条件です。これらの背景をふまえ、各企業様が適切な実務対応に取り組めるよう、2回にわたり研修会を開催いたしました。

事業の活動内容

 1回目の研修会では、就業規則をテーマに、働き方改革との関連で注意すべき点、監督署調査で指摘されやすい点を解説しました。法改正で特に注目すべきは次の3点です。

①「時間外労働の上限規制」は、規制の内容と、36協定において新たに定めなければならない事項を押さえましょう。併せて「労働時間の客観的な把握」が義務化されたことにより、全ての従業員について出社時刻・退社時刻を元に適正に労働時間を把握せねばなりません。労働時間管理は賃金支払いと直接的にかかわるという点で当然に重要なものですが、近年は「健康障害を防ぐための労働時間管理」という点を、特に重視すべきです。残業代さえ払えばよい訳ではなく、長時間労働そのものが悪であると理解すべきフェーズになっています。また、目的は法違反をしないことではなく、今より労働時間を減らしかつ今以上の成果を上げることですから、生産性向上のための取り組み・投資は欠かせないでしょう。

②「有給休暇の取得義務」は、権利としての有給休暇、という捉え方からの転換です。取得できない環境を放置することが法違反ですから、残日数管理だけでなく計画と進捗管理の徹底が必要になります。5日取得は最低条件であり、これを呼び水にして全体的な取得率向上を図るのが目的ですから、「全員が有休を全日数取得する」という前提で、人件費や要員を見積もるべきです。

③「同一労働同一賃金」は、中小企業では2021年4月1日施行ですが、改正法は既存のパートタイム労働法と労働契約法を整理・統合して昇華させたものになっています。つまり、現時点でも労働条件の不合理な相違は違法と判断され得るので、中小企業であっても趣旨を踏まえて、早期対応することが重要です。
 ここでいう対応とは、必ずしも正社員と非正社員の待遇を同等にするということではありません。キーワードは「説明と納得」です。まず、雇用区分の違いにより、職務の内容等にどのような違いがあるのか、給与等の待遇差とどのように関連するのかを、適切に説明可能な状態にすることです。説明不可能な待遇差は、無くすべきということになります。
 ここでいう「待遇差」を検討すべき範囲は広く、基本給の額だけではなく諸手当一つひとつの有無や金額、賞与・昇給の有無や金額、福利厚生の有無や内容といった、ほぼ全ての労働条件を指します。
 また、使用者に全面的な説明責任を課しているということは、労働者が納得できなければ紛争になるということですから、法の趣旨を踏まえた誠実な対応が望まれます。
 2回目の研修会では、1回目の内容を踏まえて、特に要望が多かったとのことで36協定・有休管理の実務をテーマに、具体的な例を挙げて対応方法を解説しました。

①36協定の月間・年間の限度時間や、上限規制に反しないために、具体的に毎月の時間外労働等を記録し、累積時間数や平均時間数を計算・管理しなければなりません。勤怠管理ソフト等を導入し、管理するのが現実的です。意外と疎かになってしまいやすいのが労働者代表選出の方法ですが、適切に行わなければ協定が無効になってしまいます。適切な協議・説明の場を設け、納得感のある進め方をしましょう。

②有給休暇は、一般的に入社日に応じて付与日が異なるため、それぞれの日を起算日として、年間5日の取得義務の進捗管理をしなければなりません。有休管理簿のサンプルもご紹介しましたが、従業員数が多いほど管理は煩雑になります。現実的にはこれも勤怠管理ソフト等の導入を検討するのが良いでしょう。

事業の成果

 法令通りの内容をただお伝えするだけではなく、実務に即した情報提供に努めましたので、何かしら各社様の労務管理に生かしていただけたのではと思います。研修会では、実際に労務管理をする中で疑問に思っていること、困っていることについて質疑応答もあり、有意義な機会になったのではないでしょうか。

今後の事業展開・展望

 中小企業においては今年度から時間外労働の上限規制が施行され、来年には同一労働同一賃金の法施行を控えています。ところが、今年は新型コロナウイルス感染症への対応で、事業活動のあり方そのものを見直さねばならない未曾有の状況になっています。雇用市場にも大きな変化が起きつつあり、ピンチでもあり又、今までとは違うチャンスが生まれるかもしれません。そのような機会に、他に先んじた対応ができるよう、このような時だからこそ、法令を遵守した労務管理を推進していただけましたら幸いです。

(特定社会保険労務士 森本 哲郎)


『中小企業ちば』令和2年9月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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