テーマ : 圧倒的な顧客感動はこうして生まれる!ディズニーに学ぶホスピタリティ

補助事業名 令和元年度組合事務局強化事業
対象組合等 千葉県中小企業団体事務局責任者協会
  ▼組合データ
  理事長 渡辺 勉
  住 所 千葉市中央区富士見2-22-2
  設 立 平成19年3月
  業 種  
  会員 64組合(令和2年11月現在)
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 経営支援部(℡ 043-306-3282)
専門家 ハピネスコンサルタント 櫻井恵理子

ホスピタリティの意味

 「ホスピタリティ」とは、もともと西洋の貴族が名も知らぬ旅人を泊めていたことから始まっています。もしかしたら家財が盗まれる危険を負っても疲れた旅人を家に招き入れることは、当時の貴族としての義務でした。その言葉の奥には「見返りを求めない善意」の精神があります。ディズニーテーマパークにおいても同様に、お客様(ゲスト)と従業員(キャスト)の関係も「ホスピタリティ」の精神が流れています。
 お客様に心を配るのは当然ですが、働く仲間や身近な人に心くばりができるかどうかは難しいことです。以前、私が研修グッズを持ち、オフィスの階段で転び、荷物をばらまいてしまいました。すると通りかかったキャストの男性が私の脱げた靴を拾い「シンデレラ、まずはこのガラスの靴をお履きください」とあえて自分に注目が集まるように立ち振る舞ってくれました。おかげで私の恥ずかしさも収まり、周囲にいた人たちに自然と助けてもらえました。ゲストのいないバックヤードでもゲストの様に対応する彼は、優秀なキャストであると同時に、本当の意味でのホスピタリティ精神を持ち合わせた人と言えます。ホスピタリティを体現するような、テーマパークのキャストこそ、裏表のない心くばりができるかどうかではないでしょうか。「身近な人をゲストのように扱う」接客業としての大事なことを学びました。

自律性を引き出す教育

 ディズニーで働く人は「他人の喜びが自分の喜び」というマインドを持っている人が多いです。なぜかと言うと、「ハピネスを提供する」という使命がキャスト全員に浸透しているからです。ハピネスとは「嬉しいな楽しいな」と言った人間が本来持っている「幸福感」のことです。このハピネスを提供するために、日々キャストは頑張っています。サービス業では、お辞儀の角度や笑顔のときの口角まで決められている所もあります。ディズニーでは、このようなサービスマニュアルはありません。ディズニーでは、優先度が高い順に「Safety(安全)」「Courtesy(礼儀正しさ)」「Show(ショー)」「Efficiency(効率)」という4つの行動規準があります。ハピネスを提供するためにこの4つの規準を拠り所と意識しながら、キャスト一人ひとりが自律的に考えて行動しています。
 例えば、ディズニーパークではカストーディアルと呼ばれる清掃のスタッフがいます。ある日、雨上がりに残った水と箒で、地面にキャラクターを描きました。するとゲストが大変喜んでくれました。実は、雨が降って残念な気持ちでいらっしゃるであろうゲストを喜ばせようと一人のキャストが始めたことでした。今では、カストーディアルキャストの対応として全体に広がっています。
 私が実際にホスピタリティやキャストができる心くばりの精神を学んだ印象的な出来事があります。商品開発部門にいたころ。小さな女の子から「ハナちゃん」と名付けられたダンボのぬいぐるみが「治療してください」という手紙とともに送られてきました。それは灰色に変色し、目も取れていてボロボロの状態・・・・・・。私は新しいぬいぐるみを取り寄せて送るのが「正しい対応」だと思いました。しかし先輩は思い出がいっぱい詰まっているに違いないと、そのぬいぐるみをキレイにクリーニングして目を縫い直し、「入院していたハナちゃんの治療は終わりました。体が汚れていたのでお風呂に入れました」というひらがな付きのお手紙とともにきれいなプレゼントラッピングを施し、返送しました。ディズニーはゲストと直接触れ合うことのない部門でも、与えられた仕事の中で「どうしたらお客様に喜んでいただけるか」を常に考えている組織だと実感しました。

チーム力を高めるコミュニケーション

 組織力を上げるためにはチーム内でも細かな心くばりが大切です。コンサルタントとして様々な企業のトップの方と接する中で、「部下のモチベーションをあげるリーダー」はコミュニケーションの取り方が異なります。
 私はコミュニケーションには深度があり、レベル1「あいさつ」レベル2「事実」レベル3「信条」、レベル4「感情」という順に深くなると考えています。例えば、「300人の部下と会話はばっちりです」と主張する方の部下に話を聴くと「うちの上司はあまりできていない」と答えるケースがあります。この場合、「お疲れさま、あの企画書どうなった?」とレベル2の「事実」までしか話せていなかったのです。上司にとってはコミュニケーションでも部下にとっては単なる「業務確認」でしかなかったのです。
 部下がどのような「信条」で仕事をしているのか。今日はどのような「感情」を持っているのか、そこまで心を向けることでチームワークの強固な組織を創り上げることができると思います。コロナ禍で、オンラインでの会議も増えてきています。多様性、曖昧性、複雑性が増す中、ますます組織内のコミュニケーションのあり方が重要になってくることでしょう。

(ハピネスコンサルタント 櫻井 恵理子)


『中小企業ちば』令和3年1月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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