テーマ : 女性活躍推進と育児介護休業法

補助事業名 平成30年度連携組織活性化研究会
対象組合等 千葉県印刷工業組合
  ▼組合データ
  理事長 吉田 良一
  住 所 千葉市緑区古市場町474-251
  設 立 昭和34年
  業 種 印刷業
  組合員 40人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427)
専門家 社会保険労務士法人ハーモニー
菊池麻由子(社会保険労務士・キャリアコンサルタント)

背景と目的

 男女雇用機会均等法が1986年に施行されてから30年余りが経過し、時代も平成から令和へと変わりました。今年4月からは働き方改革関連法が順次施行され、中小企業は今年4月から有給5日の確実な取得、2020年4月には時間外労働上限規制の導入、2021年4月には正規・非正規労働者の間の不合理な待遇差が禁止になるなど次々と改革が求められています。国が目指す「働き方改革」の基本的な考え方は、『働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革』であり、日本の喫緊の課題解決のための政策なのです。これらには大きく2つの背景があると考えます。一つは少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少です。生産年齢人口とは生産活動の中心となる15歳から64歳未満をいいます。総務省の統計によると2010年には約64%だった生産年齢人口割合は2060年頃には約51%となり、65歳以上の高齢化率は2010年の約23%が2060年頃には約40%になると予想されています。
 つまり、経済を支える現役世代が減少し、高齢者が増加するため、現役世代の社会保障負担は大きくなります。2010年には1人の高齢者を2.5人で支えていたのが、2025年には1.2人で支えるようになると推定されています。もう一つは経済状況の変化による終身雇用の崩壊と働く人のニーズの多様化です。男女雇用機会均等法が施行されて以降、女性の社会進出は進み、現在女性就業者は約3000万人、全体の約44
%と増加を続けています。但し女性就業者の約半数は非正規労働です。バブル崩壊、そしてリーマンショック以降、企業は終身雇用や年功序列の継続が難しくなりました。従来の、男性が仕事をして女性は家庭を守るといった価値観から、夫婦が共に働くという価値観への変化は珍しいものではなくなっています。今回は女性の活躍という視点だけではなく、性別や年齢、国籍などに関係なく働きやすい職場環境を整える一つの考え方として『女性活躍推進と育児介護休業法』と題してお話をいたしました。

女性活躍推進

①「女性活躍推進法」施行

 男女雇用機会均等法は、国連の「女子差別撤廃条約」という諸外国からの外圧を借りながら、当時の経済界の反対を押し切って誕生しました。女性が性別により差別されることなく、かつ母性を尊重されつつ充実した職業生活を営むことを基本理念とするものです。しかし施行したものの、女性の多くが育児や介護などの家庭の負担を負う状況の中では仕事と両立しながら活躍するどころか就業を継続することが難しいということが明らかになり、1992年に「育児介護休業法」が施行されました。ちょうどそのころバブルが崩壊するなど経済状況も大きく変わりました。専業主婦世帯よりも共稼ぎ世帯が増加し、それと共に男女雇用機会均等法も育児介護休業法も、順次強化され、さらに2016年には「女性活躍推進法」が施行されました。この新しい法律は、女性活躍の「機会」を均等に与えるというだけでなく、その「結果」が出ているかどうかを企業などが検証し、対策や目標数値を盛り込んだ計画を策定し実行するいわゆるPDCA(計画・実行・評価・改善)の実施とその公表を常時雇用する従業員が301人以上の企業に義務付けたものです(300人以下は努力義務)。2019年6月5日には同法が改正され、今後労働政策審議会での議論を経て101人以上の企業に義務付けられることが決まっています。

②えるぼし認定

 積極的に女性活躍の取り組みを進めている企業には「えるぼし認定」取得の検討をお勧めします。先ほど申し上げた女性活躍への対策や目標数値を盛り込んだ計画を策定し実行し、①採用 ②継続就業 ③労働時間等の働き方 ④管理職比率 ⑤多様なキャリアコースの達成基準に適合すると国に認定されるマークです。社内の取り組みも促進され、人材採用において求職者へのアピールポイントになり、評価が得られやすく、企業としては公共調達の加点が受けられるなどのメリットもあります。現在認定企業は約900社となり、今回の法改正では更なるインセンティブを強化し、女性活躍をより推進するために「プラチナえるぼし」制度の創設が決まっています。

③女性が働きやすい職場環境は全従業員が働きやすい職場

 女性は結婚・出産・育児などライフイベントによって働き方に制約が生じる可能性が非常に高く、本人の能力や努力のみでは解決できないことがあります。仕事に対する価値観も多様になっており、それは女性だけでなく今後は男性も同様です。育児を担う女性が活躍できる職場環境は、すなわち制約のある中でも一人ひとりが能力を発揮できる環境ということで、それは企業全体の働き方の変革、生産性向上へと繋がる好循環が生まれます。男女が共に職場環境改善に参画することで、多様な考え方が共有できてイノベーションも起こりやすくなります。また育児だけでなく介護も、誰もが直面しうることでありながら、企業に意識されにくい大きなリスクと言えます。その他にがんなどの病気と仕事との両立など、大切な人材が離職しなくても個々の持つ能力を発揮できる職場環境整備の第一歩が今回の「働き方改革」なのです。

育児介護休業法

 1992年に施行されてから、仕事と育児介護を両立させるための国の施策として、大きく3回の改正を経てきました。

①育児休業

 子が最長2歳まで育児休業期間の延長が可能となりました。現在の育児休業取得率は女性が82.2%、男性が6.16%です。国は男性の育児休業取得率を2020年までに13%とすることを目標にしていましたが、ほど遠い状況です。民間の調査では男性が育児休業を取りたくても取れない理由として「取りにくい職場環境がある」「人材不足で取得できない」という結果が出ています。一方、育児休業を取得した男性の話を聞くと、「育児の大変さが分かった」「子供への愛情が深まった」などの声があり、育児休業を終えて復職してからも育児へ積極的に参加している傾向がみられます。企業側の負担も考慮して、国は「両立支援助成金」の中に、男性の育児休業取得を推進するコースを整備しています。是非、利用を検討してはいかがでしょうか。

②介護休業

 対象家族1人につき、通算93日を3回まで分割して取得ができるようになりました。育児と同様に介護休暇、短時間勤務制度、所定外労働・法定労働外・深夜勤務の制限が設けられるなど整備が進んできました。雇用保険加入者は「介護休業給付金」が受けられます。以前より拡充され、現在は一日当たりの賃金の67%を通算93日分まで受けられるようになっています。育児介護と仕事の両立支援ための制度は拡大されつつありますので、企業も労働者も国の制度を上手く利用することで、離職してキャリアを中断させることを防げるでしょう。まずは企業、行政の制度を調べ一人で抱え込まないことが大切です。

当組合員の学び/今後の課題

 今回の研修後、ある企業では早速働き方改革推進委員会を立ち上げ、社内アンケートを実施、テレワーク制度導入を計画するなどの取り組みを進めています。解決策は必ずあります。悩むより初めの一歩を踏み出すことが大切で、その背中を押すことができれば幸いです。

(社会保険労務士・キャリアコンサルタント 菊池麻由子)


『中小企業ちば』令和2年1月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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