テーマ : 組合の共同購買事業の活性化について

補助事業名 平成26年度連携組織活性化研究会
対象組合等 千葉県測量設計補償協同組合
  ▼組合データ
  理事長 影山 喜一
  住 所 千葉市中央区中央4-16-1 建設会館ビル6 階
  設 立 平成 4 年 12 月
  業 種 土木建築サービス業
  組合員 44人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427)
専門家 中小企業診断士 清水 透

背景と目的

 平成27年2月9日、千葉県測量設計補償(協)で「組合の共同購買事業の活性化について」をテーマに研修会があり、講師を務めた。その概要を報告する。

事業の活動内容

 ①共同購買・販売事業は難しい

 協同組合が実施する共同経済事業として共同購買はもっとも馴染の深いものである。しかし、うまくいっている組合は意外と少ない。
 共同購買の難しさを分かりやすく語った農協の理事長がいる。
 うまくいかない理由は「組合は単に手数料を稼いでいるだけで、リスクを取らないし、汗をかかない」からだという。その結果、経営規模を拡大した農家は農協より安く他から仕入れるようになる→組合の総取扱量は減る→仕入が高くなる。この悪循環の結果、共同購買は魅力のない事業になっていくという。これは、中小企業の組合においても同じではないだろうか。

 ②共同購買事業の基本モデル

 共同購買事業の基本的なビジネスモデルを確認しておきたい。
28-01-01 右の図のように、一個10円の商品をまとめて10個買うならば、100円のところを二割引き80円にしてもらえる。組合が一割の手数料を取っても、組合員は9円で仕入れることができ喜ぶ。これが基本的なビジネスモデルである。
 しかし、前述の農協の理事長の言葉にあるように、これは組合が汗をかかない机上のモデルである。また、組合員毎の利用高を考慮していないという不合理を抱えている。さらに、そもそも一個10円という価格を誰が決めたのか、これも問題である。
 売手の希望価格が一個10円で、市場では二割引きの8円が当たり前なら、組合の価格設定そのものが甘いことになる。これでは組合員は利用しない。
 ある民間企業が家電小売店を会員にした共同仕入機構を経営している。その会社では「大手量販店の店頭の価格で売って、二割五分の粗利保証」を約束して会員を集めていた。
 つまり、大手家電量販店の店頭で10万円で売っているテレビなら、7万5千円で会員に売る、というのである。これを入会時に約束し、約束を守るために、家電メーカーと本気で交渉する。メーカーが「1000台買ってくれるなら安くする」と言ってきたら、1000台のリスクを取るかどうか検討し、決断する。そして、必死で1000台売り切るのである。
 事業とは、こうしたものだと思う。組合だから、組合員は事業を利用するものだ、と考えるのは甘えである。
 組合の仕入れ担当者は値切る努力をしているだろうか、多数の仕入先を比べているだろうか。そうした努力をしないで、売れなかったら「買わない組合員が悪い」で片付けていないだろうか。組合の共同購買があまりうまくいっていない理由は、基本的な仕組みが甘いというケースもあるように思う。

 ③共同購買事業分析

 共同購買事業を成功させるために為すべきことは、過去の失敗の分析である。
 組合と会社の大きな違いの一つに、ビジネスプランを誰が作るのか、という点がある。会社では、経営計画は取締役会が策定する。
 組合の場合は、理事会が計画を作るにしても、事業計画・収支予算は総会承認事項だから、最終的には組合員が作ると解釈できる。
 購買事業担当理事、事務局、理事会が計画を立案しても、最終的には、組合員が決めるのである。しかし、組合員個々は本気で考えてはない。組合員は自分が決めているのに、組合の価格より安いところがあれば、迷うことなくそこから買う。決めた組合員自身が買わなければ、誰も買わないから計画は破綻する。無責任な計画は、絵に描いた餅にすぎない。
 画餅にしないために失敗の分析が必要になる。
 トヨタ式生産方式を確立した大野耐一氏は問題の真因を突き止めるために「なぜを五回繰り返せ」といった。大野氏に学んで、共同購買事業のうまくいかない理由を「なぜなぜシート」で考えてみるのも失敗分析の一つの方法である。こうした、見える化のツールを使って考えて行けば「みんな」で考えることができる。組合は対話で運営するものだ。対話を面倒がって多数決で決めるから組合員が組合を離れていく。なぜなぜシートは組合に対話を作る。
28-01-02 なぜ、共同購買事業がうまくいかないのか、その理由は「競争相手に負けているから」である。その敗ける理由を考えて行くと、図にある五つくらいを思いつく。①価格が高い、②品質が劣る、③多頻度配送に応じていない、④代金決済の利便性で負けている、⑤品数が少なく選べない、こんなところだろう。次にそれぞれの理由について「なぜ」と考える。「理由1価格が高い」のはなぜかと理由を考えるのである。量がまとまらないから高いのなら、「なぜ量がまとまらないのか」という四つ目のなぜを考え、組合員の大手が利用していないのが理由ならば「なぜ大手は利用しないのか」と五つ目のなぜを考える。その理由が「一律の価格」にあるならば…、解決策として、多く買う者を優遇することが必要だ、と気づくはずだ。一律の平等は、公平ではない。これを間違えると共同事業はうまくいかないのである。
 こうした、なぜなぜ問答を、他のなぜについても行っていけば、共同購買事業がうまくいかない理由が分かってくる。

 ④成功事例に学ぶために

 自分達の共同購買事業がうまくいかない理由を突き詰めながら、成功事例を学ぶとその学びは生きる。
 よく成功事例を教えてくれ、と言われて紹介するのだが、返ってくるのは、できない理由の説明であることが多い。できない理由など聞きたくない。成功の裏には相当の苦労があるから、最低限、苦労する覚悟をして成功事例と向き合うべきだ。
 いくつか成功事例を紹介しておこう。
 お菓子の製造業者の組合が、材料の共同購買をしている。うまくいっている理由は、簡単な加工をするところにある。共同購買は、企業の最重要な「他社との差別化戦略」を「同質」にしてしまう危険をはらんでいる。中小企業が活きるために「差別化戦略」がある。共同購買事業はその差別化のところを同質にしてしまう。「利は元にあり」という商売の格言がある。仕入は利益の元なのである。それを同質にするのが共同購買なら、異質性を担保した仕組が必要かもしれない。このお菓子の組合は簡単な「加工」をすることで組合員の同質化を防いでいる。加工の内容は組合員ごとに秘密である。真似されては困るからである。
 主要材料の共同購買が難しければ、付随的な材料に限定するとか、仕入価格の情報開示だけをするといった方法も検討に値する。
 仕入価格の情報を開示しただけで3~5%の仕入価格の引き下げに成功しているグループがある。飲食・ホテルチェーンが組合員になっているのだが、厳しい守秘義務のルールを設けて情報開示していると推測する。他社の仕入価格を知れば、仕入先との交渉を優位に進めることができ、仕入価格の引下げを実現できる。
 共同購買事業は、加工するとか、価格情報の開示だけにするとか、いろいろな工夫の余地がある。皆で検討してみるとよいだろう。

 ⑤必要なのは「本気」

 共同購買事業に限らず、組合が共同事業を行う上で必要なものは、本気になって取り組む者の存在である。本気の者なくしてうまくいく事業はない。
 組合の事業に本気で取り組む人を決めたうえで、しっかりと事業計画を作る。まとまれば安くなるのは確かだが、まとめることができるのか、どれだけ安くなるのか、得意先を奪われた業者が妨害してきたらどう対応するか、そうした点も詰めておかなければならない。共同購買は取組みやすい事業だが、決して簡単ではないということを肝に銘じておいてほしい。 (清水 透)


『中小企業ちば』平成28年1月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)