テーマ : 第四次産業革命において求められるスキルについて

補助事業名 平成30年度組合等新分野開拓支援事業
対象組合等 協同組合シー・ソフトウェア
  ▼組合データ
  理事長 谷尾 薫
  住 所 佐倉市王子台1-28-8 ちばぎん臼井ビル3F ㈱ジィ・シィ企画 内
  設 立 平成3年11月
  業 種 情報サービス業
  組合員 15人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427)
専門家 株式会社グローバブル
代表取締役 樋口 匠

はじめに

 昨年度に㈿シー・ソフトウェアの「組合等新分野開拓支援事業」における「組合等のより高度な知識と技術の習得について」をテーマにした研究会を2回担当し、それぞれ「数学と統計」、「デザイン思考」についてお話しいたしました。
 「数学と統計」はAI・IoT・ビッグデータ時代に重要となる統計分析がどのような意味をもってなされているのかを理解すること、「デザイン思考」は第四次産業革命において主体的に問題点を発掘し、コンセプトの創造と市場の創出につながる思考法を実際の体験から理解することを主な目的としました。これらのスキルはデータの重要性がますます高まる今後の情報サービス業界において、たとえば機械学習の理解やデータ分析のできるエンジニアとして、更に飛躍していくために重要なスキルであると考えられます。
 今回はこれを踏まえ、デザイン思考の重要性について詳しくお話したいと思います。

事業の活動内容

~デザイン思考とは何か~

 何か問題に直面した際に、それを解決するには「どこに問題があるか」を正確に把握する必要があります。この時、常識や慣習にとらわれずにゼロベースで現状を見極め、問題を発見していくことが必要となります。
 新しく何かを始めるには、ある時代・集団を支配する考え方から解放され、非連続的・劇的に変化していかなければなりません。このように社会の規範や価値観が変わることをパラダイム・シフトといいます。パラダイム・シフトは、本質的な問題の所在を明らかにした時に起こるといわれています。これを人為的に引き起こそとする1つの方法が”デザイン思考”です。
 デザイン思考には、次のようなプロセスがあります。
1.理解する(understand)、共感する(empathize)、問題定義する(define)
2.探求する(explore)、創造する(ideate)、試作する(prototype)
3. 具現化する(materialize)、検証する(test)、実装する(implement)
 これらのプロセスは共感から実装に進んで終わりということではなく、必要に応じて前のフェーズに戻ることを前提としています。特に「検証」の結果によっては少し前の「創造」「試作」に戻ることもあれば、そもそもの「共感」から考え直すこともあります。デザイン思考は、絶えず循環し、イノベーションを起こし続けていく終わりのない取り組みです。
 デザイン思考を理解するうえで特徴的なプロセスは「共感」と「検証」です。デザイン思考は技術中心ではなく人間中心の課題解決アプローチであるため、「何が出来るか」ではなく「何が必要とされているか」という視点から課題発見・解決に取り組みます。その際に顧客本人ですら気づいていないニーズの奥の本質的な欲求「インサイト」を見つけ出すために必要な姿勢が求められます。それが「共感」です。
 また、デザイン思考において「インサイト」とは一度のアプローチで辿り着ける類のものではなく、絶えず続く循環の中で徐々に近づいていくものです。そのためには精巧さを捨ててでも素早く試作品を用意し、なるべく早く「検証」から得られるフィードバックを次の循環に活かすことを目指します。この循環を素早くたくさん回すことが、「インサイト」に辿り着くこと、またそれによってイノベーションを起こすことへのアプローチになるのです。

~デザイン思考の重要性について~

 第四次産業革命を迎え、社会構造の大きな変革が予想される中、日本でもデザイン思考、あるいはそれに近いアプローチの重要性が認識されつつあります。なぜなら、これからは市場の動向に身を任せるのではなく、自ら課題を設定し、新たな市場を創出していかなければビジネスチャンスを逸してしまいかねないからです。デザイン思考を行うことでイノベーションの創出ができ、また早いサイクルで仮説から検証までを行うことができますので、新たな時代の到来に非常にフィットした考え方です。
 デザイン思考を取り入れることで期待したいことは二つあります。一つ目は、「新たな発想の創造」です。デザイン思考の最大の効果は、上述の通り、イノベーションの創出であり、これまでの価値観にとらわれないまったく新しいアイデアが生まれやすいということです。デザイン思考は人間を中心とした考え方であるため、これまでの市場を中心としたアプローチではなく、人々のニーズからその課題の本質を見極める事ができます。それにより個々の要望にフィットした解決策の創造が期待できると考えています。
 二つ目は「迅速に軌道修正する習慣の確立」です。デザイン思考においては、検証とそこから得られるフィードバックを新たな仮説に組み込むことが重視され、その思考プロセスにおいて「素早く意義ある失敗をたくさんする」という姿勢が生まれます。もちろん、最初から成功(顧客が満足出来る提案)に辿り着くことが理想ですが、ニーズが多様化した現代において個々の要望をとらえることは容易ではありません。デザイン思考においては、この循環のなかで、顧客自身も気づいていない「インサイト」に辿り着くことが期待されます。
 既に飽和状態に見える市場経済の中で新たな市場を開拓していくためには、今までの価値観にとらわれることのない、新しい視点からのチャレンジが必要です。そのためにデザイン思考の導入は効果的でしょう。

~デザイン思考を学ぶためには~

 最近は関連書籍も多く、デザイン思考を学びたいという方は、参考資料に事欠かないような時代になったかと思います。しかし、ある程度本気で勉強したい方は、是非原典と言えるものに当たって頂きたいと思います。その点では、やはりデザインファームのIDEOまたはスタンフォード大学から出ているものが良いでしょう。IDEOの代表であるティム・ブラウン自らの著作である「デザイン思考が世界を変える(早川書房)」は、表面的なメソッドに留まらないデザイン思考の本質的な理解につながります。また、スタンフォード大学は「A Virtual CrashCourse in Design Thinking」というWebサイトにて、デザイン思考の練習をするためのツールを公開しています。上手く活用していくと、より良い理解につながると思います。

終わりに

~貴組合の皆様に活かしていっていただきたいこと~

 デザイン思考のプロセスにおける「共感」段階においては、人々がなぜそういった行動をとるのか、ニーズの奥の「インサイト」は何かを実際に五感を通して探っていく作業がメインとなります。これは、AIには(少なくとも近い将来には)できない仕事です。AI・IoT・ビッグデータ時代の現代においても、これは変わらないと思います。データ分析においても、AIが出す結論には根拠が不明なものが多いことから、必ずしもすべてをAIに任せることはできないため、検証作業をするためのスキルはやはり重要だからです。
 貴組合や組合員の皆様には、このデータ活用時代の中で今回学んだことを積極的に活かし、人間にしかできないスキルを身につけながら活躍していただきたいと願っております。

(樋口 匠)


『中小企業ちば』令和元年9月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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