テーマ : 経営者が知るべき労務問題について

補助事業名 平成26年度連携組織活性化研究会
対象組合等 送変電機器千葉協同組合
  ▼組合データ
  理事長 菊池 康文
  住 所 市原市八幡海岸通7 富士電機㈱千葉工場内
  設 立 平成 4 年 3 月
  業 種 電気機械器具製造業
  組合員 14人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427)
専門家 浅山社会保険労務士事務所 代表 浅山 雅人

背景と目的

 厚生労働省の統計によると、平成26年度の1年間に約100万件もの労働相談が寄せられています。
 人事労務トラブルの代表例としては解雇や残業代不払い、セクハラ・パワハラといったものが上げられますが、近年では、名ばかり管理職の問題、いじめ・嫌がらせなどの労働相談が増加し、紛争内容は一層多様化しています。
 これら労務トラブルをいかに回避するかという解決策は、様々ありますが、まずは何といっても、「採用をキチンとする」です。
 この当たり前のことがなかなか実施できていない現状を目の当たりにすることが多く、残念ながらこれが原因で労務トラブルになっているケースは後を絶ちません。そこで、今回はいかに採用をキチンとするかについて、考えてみましょう。
 そこで今般、当組合において「経営者が知るべき労務問題について」のお話をさせて頂きました。その際の内容を紹介させていただきます。

事業の活動内容

 従業員採用面接は〝お見合い〟と考えよう

 採用、いかにいい人(定着してくれる人)を選ぶかがテーマです。ほとんどの中小企業は、採用を面接のみで決めます。だから、面接は非常に大事であり、用意周到に事を進めないと失敗します。そのためには、(1)事前に求職者の情報をつかみ(2)面接当日は面接に集中し(3)事後のフォローをキッチリ、これが成功の秘訣になります。
 今はあまり聞きませんが、昔の結婚はお見合い合いが普通でした。面倒見のいいオバチャンが、経歴書や写真を、頼みもしないのに持ってきます。その段階で相手方の大体の情報をつかむことができます。そして、それなりの場所で出会い、意気投合ともなれば、仲人は紹介者夫妻が引き受け、めでたしめでたし。採用面接も、このお見合いの流れでやられたらどうでしょうか。私が、お勧めするポイントは3つあります。

 【ポイント1 事前に求職者情報をつかむ】

1.事前に履歴書を送ってもらう
 届いた履歴書を穴が開くほど眺める。文字が丁寧か、誤字・脱字はないか、空欄が多くないか、学歴は、職歴は、資格は、志望動機は、過去の職務経験がわが社にどれくらい役に立つものなのか…
 これだけのチェックを面接時に同時にやるのは至難の技です。だから、事前に取り寄せておくことが大事になります。
2.事前にアンケートを取る
 これは特にパートの場合に有効です。履歴書が送られてきたら面接日時を通知しますが、その時に、アンケートを同封し、家族と話し合いの上記入して、面接日当日にご持参いただきましょう。この段階で断ってくる求職者もいますが、それはそれで構いません。

 【ポイント2 面接当日は面接に集中する】

 基本的には社長が一番ゆっくりできる日時がいいです。月曜日の10時とかだと、面接どころではないのではないでしょうか。それこそ、土曜日でもいいのではないでしょうか。そして、1時間おきぐらいに時間を設定し、1日で全員終わらせる。履歴書、事前アンケート、求職者本人をじっくり見ながら、聞いたり、話をさせたりして意中の人に決めます。また、第一印象はお互いに大事にすべきです。案外これが的を射ていたりするものです。
 履歴書を事前に見ているので、面接で何を聞くかをあらかじめメモをしておくと内容の濃い面接ができます。そして、賃金などの労働条件ハッキリ話しておいた方が、後でもめずにすみます。なお、他の従業員さんにも、当日は面接があることを知らせておいた方がいいでしょう。

 【ポイント3 事後のフォローをキッチリやる】

1.不採用者への対応は特に重要です
 合否の回答期限前までには、必ず文書で丁重に回答します。また、預かった履歴書もお返しします。従業員として採用できなかったということであっても今後、外部顧客等になる可能性があるということを忘れてなりません。だから、採用者と同じように大事に扱う必要があります。
2.採用者に対する手続きを押さえる
 採用者には、内定通知書の発行、労働条件の再確認、健康診断の手配、会社への提出書類の指示、制服の採寸など、やらなくてはいけないことが結構多いです。これらのことを、この段階でキッチリやっておくと、入社日からスムーズに勤務させることができます。採用面接は、会社が求職者から従業員を選ぶために行ないますが、同時に求職者からも選ばれる場面でもあります。〝お見合い〟と同じぐらいのつもりで臨み、後々後悔しないで済むようにしたいものです。

 採用後にトラブルを防ぐ賃金の決め方

 中小企業は、通年採用です。出会いも多く、そして別れも多いのが、また中小企業の特徴でもあります。この応募者の人柄・能力などを勘案し、採用を決め雇用関係に入ります。その雇用関係の中で、大きなウエートを占めるのはやはり賃金です。〝金の切れ目が…〟、の言葉のごとく、賃金でトラブルと良好な雇用関係は継続し難いです。そこでその対策としては、採用時に、(1)賃金内訳明確化、(2)下げやすく、(3)欠勤控除しやすく、を考えお互い納得の上で決めておくことがポイントとなります。賃金の話は、採用時を逃すとなかなかし難いものです。かといって、採用後にもめるのも嫌なもの。そうであれば、最低次の3つについては、ハッキリと取り決めた上で、雇用関係に入った方が無難です。
◎その1 基本給は基本時間分と考える
 今、ほとんどの会社は週40時間適用です。制度の良し悪しは別にして、これに従わざる得ません。そうなると、1カ月約170時間が、残業手当なしに働いてもらうことのできる上限となります。これを基本時間と考え、それに対して支払うのが基本給と割り切ります。仮に、1カ月200時間は働いてもらわないとその業務が回らないのであれば、30時間分は残業時間ということになります。だから、賃金は基本時間と残業時間分を、明確に分けておくことがポイントになります。
▲好ましくないパターン
 営業外勤者を基本給20万円で決め、残業のことはそれとなく話すに留めて雇う。会社は基本給20万円は残業込み込み、のつもりだが…。
●お勧めパターン
 基本給16万3千800円、残業30時間分3万6千200円、合計20万円で決めます。雇用契約書にも明記し、賃金明細にもこのことを表示しておきます。採用時にこのように条件提示して、雇用契約を結んでおけば残業30時間まではもめずに済みます。また、途中から、この方式を採用する時は本人の承諾を取っておくことが肝心です。
◎その2 期待はずれの時のことを考える
某一流大卒、元大手企業の部長、元銀行の支店長、…。経歴を見ただけで期待を持たせる人は案外多いです。期待どおりなら何ら問題はないのですが…。往々にして、人は使ってみないと解らない、というのが現実です。だから、期待はずれのときに賃金は下げやすくしておくことがポイントです。
▲好ましくないパターン
採用と同時にいきなり○○部長に登用し、何となくの年俸500万円と決める。毎月基本給30万円、賞与年2回70万円を支払う。契約期間なしで、ダメ押し。
●お勧めパターン
採用時には、あくまで○○部長候補とします。基本給20万円、特別手当10万円とし、業績如何により賞与を支給する。特別手当には残業手当30時間見合い分を含み、原則1年に限り支給する。契約期間は1年で、1年経過後に期待どおりであれば、部長に昇格し、特別手当は役職手当に振り替える。もし期待はずれの場合は、新たな雇用契約締結時に、それなりの賃金を盛り込むことになります
◎その3 欠勤控除があることを考える
会社・従業員とも、月給制だと休んでも賃金は控除されない、との認識をもっている割合は意外と多いです。しかし、賃金には「ノーワーク・ノーペイ」という大原則があります。採用後6カ月間は年次有給休暇はないのですから、理由の如何に関わらず、休んだ場合は欠勤ということになります。欠勤であれば欠勤控除は堂々とすべきです。堂々とできないのは、採用時に欠勤控除があることを明示していないことが多いからではないでしょうか。欠勤控除がないことを前提にすると、「何で月給制なのに…」、ということになります。だから、採用時に欠勤控除することをはっきりさせておくことがポイントとなります。
▲好ましくないパターン
月給20万円で採用します。労使とも欠勤することを想定せず、従業員は完全月給制と思い込みます。賃金規程もここら当たりはアバウト。
●お勧めパターン
月給20万円で採用します。ただし、遅刻・早退・欠勤の場合はその時間分欠勤控除します。この場合は1時間当り○○円控除します。育児、介護、慶弔休暇など、色々な休暇制度はありますが、会社が賃金支払い義務を負うのは、年次有給休暇だけと明記します。
一旦、雇用関係に入ると、今の日本では、会社側の立場を守る法律はほとんどありません。だから、雇用関係に入る前に、特に賃金について、1.賃金内訳明確化、2.期待はずれのときに下げやすく、3.欠勤控除しやすくしておくことが大事になります。予防第一!
【採用時5点セットを確認しよう】
採用内定から入社日当日までにやっておくべきことについて考えます。内定から入社日までの事務は、中小企業の多くが苦手なところですが、採用後の定着に大きな影響を持ちますのでしっかりと押さえていかなければなりません。つまり、1.採用内定通知書、2.健康診断書、3.雇用契約書、4.入社誓約書、5.就業規則の確認の採用時5点セットを順に従い確実にやっておくのです。また、最近では採用後のお見合い期間である「試用期間」につぎのような確認書を取り交わす例もあります。やっぱり最初が肝心!労務トラブルの回避は、まず採用からといえるでしょう。 (浅山 雅人)


『中小企業ちば』平成27年11月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)