テーマ : 組合を活性化する経営革新マインドへの転換

補助事業名 平成29年度組合等新分野開拓支援事業
対象組合等 商店街振興組合柏二番街商店会
  ▼組合データ
  理事長 石戸 新一郎
  住 所 千葉県柏市柏1-4-5
  設 立 平成3年3月
  業 種 小売業、飲食店業
  組合員 40人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 商業連携部(℡ 043-306-3284)
専門家 芝浦工業大学非常勤講師 佐藤 和裕(一級建築士)

背景と目的

 柏市中心市街は、この20年ほどで状況は大きく変わってきた。郊外型商業施設の乱立。つくばエキスプレス開業による柏駅乗降客数の減少。40年強にわたり街の顔であった「そごう柏店」の閉鎖。タワーマンション二棟による中心市街地人口増加など、新たな展開を模索する時期に入っている。
 これらの事象は中心市街を商業活性化の観点だけで解決することが限界にきていることを示しており、そのことを理解している柏の商業者と行政は学識経験者(都市デザイン系)を招いて「公民学連携」を掲げる柏アーバンデザインセンター(udc2)を立ち上げ、中心市街のグランドデザインをまとめ上げるに至っている。
 それらを踏まえながら、柏二番街独自の施策を構築していくために、学生(大学院生を含む)や専門職、行政と議論の機会を設けている。この活動は「かしわクリエイティブベース」と称し平成29年度の活動で4年目となったが、立場に捉われないフラットな関係で議論が行われることを最も重要視してきた。むしろ、学生からの意見を大事にし、それを大人たちが活かす方策を考えるかたちで進められたのである。学生のプレゼンは玉石混合となるが、むしろ、それを歓迎した。実現可能性や即効性を最重要とせず、「面白い!」と感じる内容のブラッシュアップを心掛け、生れ出たアイディアの数々を育んできた。いわば「まちづくりの孵卵器」的な場である。それを堂々と貫いてきた。

事業の活動内容

①会議メンバーの構成
 主体は学生及び若き研究者たちであった。これに柏二番街役員、行政、商工会議所等が参加することで、新しい発想に実効性を検討する体制となることを期待した。
 会議のコーディネーターは、建築及び都市計画を専門とする大学講師2名が担った。また、オブザーバー参加を柔軟なものとし、建築設計の実務者、まちづくりに尽力されている方などにも幅広く声をかけ意見を求めた。
 若いクリエイターやアーティストである大学生や研究者を重用し、柏ならではの創造性を展開することを目的としたが、行政等の参画は主旨を理解される方に絞った。部署に拘らず関心を示す方は歓迎し、関係部署であっても無関心の方々への出席は強要しない。旧態依然とした価値観のまま無自覚に批判ばかりで行動を起こさない方は、声を掛けないようにした。
②プロジェクトの実践
 平成26~28年度の活動は、学生による柏の街をフィールドとしたリサーチと、その成果を基にアート作品として視覚化する活動を行ってきた。平成29年度は、学生からの要望と商店街側の検討課題が合致したため、活動の主体をリサーチに限定した。柏駅周辺に建つ二つのタワーマンション居住者の意識調査である。隣接する当商店街にとって、新住民ともいえる方々が柏の街をどのように評価されているのかを知っておくことは、商店街活性化策を講じる上で重要なことと考えていたのである。
③会議の進め方
 会議は月に一度、開催された。そのなかで内容を吟味し、アンケート調査の集計報告を行い、報告内容を基に闊達な議論を行った。
 また、それぞれの回には、主たる事業の検討の他に、学生たちが関わっているまちづくり活動や、関心を寄せている話題を発表してもらった。事業と直接関係しない話であっても話題を提供してもらい、多くの刺激を受けられるよう図った。回が進むにつれ、大人たちもプレゼンを行い、まちづくり活動の在り方や商店街活性化策の取り組みなどを全員で議論するようになった。

事業の成果

①柏駅周辺超高層マンション
住民意識調査
 平成29年9月に行われたアンケート調査から、タワーマンション居住者の中心市街への評価が見えてくる。購入理由が最も高いのは「交通の利便性」、続くのは「賑わいと日常生活の利便性」。一方、低かったのは「教育環境」と「医療福祉環境」であった。日常生活における買い物は、柏駅周辺を利用する傾向が高いことが分かった。
 また、転居前との比較では、総合的に満足度が高い結果となったが、「まちの清潔感」と「公園や緑地などの環境」に関する評価は不満の度合いが高い。このことは自由記述の回答からも見て取れる。「改善が必要な点」として挙げられているものを要約すると、「清潔感への不満」「風紀の問題」「夜間の喧騒」そして「図書館等の公共文化施設の脆弱性」「公園や緑地の不足」となる。
 これらの結果は、柏という街が交通の利便性が最も選択される理由であること、そして駅周辺の賑わいと利便性が評価されていることを示すと共に、柏駅周辺が抱えている問題を概ね拾い上げていることを示している。
②問題意識の共有と醸成
 毎回自由に議論することで、問題意識が共有されるとともに、モノの見方や考え方が醸成されていった。これらの成果は、大人の側への影響が大きかったのではないか。若者たちの意見は我々の固定観念に揺さぶりをかけ、目から鱗が落ちる感覚を与えてくれた。

今後の事業展開・展望

 かしわクリエィティブベースは、柏駅周辺の商業活性化、都市デザイン等の取り組みに新たな一石を投じる意気込みで活動してきた。学生や若き研究者たちによる視点を頭ごなしに排することなく、むしろ着眼点の面白さを大いに楽しみ、立場を気にせずフランクに議論することでブラッシュアップしていくことを目論んでいた。
 商業活性化を検討するにあたり「消費者」及び「来街者」は対象となるが、「住民」は考慮の外であったのではないか。しかし、そのような視点では、将来像を描くことは難しい。少なくとも柏駅周辺の将来像を検討していくためには「住民」という切り口も含めて考察を重ねていく必要がある。柏の中心市街には一般のマンションも少なくない上、タワーマンションが屹きつりつ立する以上、「商業エリア」と「住居エリア」を分けて考えている訳にはいかない。
 柏二番街にとって商業活性化の方策は「まちづくり」を考えることであり、「都市デザイン」や「都市計画」などを学ぶことに繋がる。そこで協働する相手に選んだのが、都市を考える学生たち(理系・文系問わず)と都市を舞台に表現を欲する学生たちであった。彼らが研究する最先端の都市に関する理論を、柏の街を対象としたリサーチや表現活動を通して大人たちが学び、現実的な方策の構築に組み込んでいく仕組みづくりを試行したのも自然の流れといえる。
 これまでの会議体の活動は、それなりの成果を築いてきた。行政側でも活動の意義を認める方々が少しずつでも増えてきている。しかし、問題はこれからである。「活かす側」を更に増やしていかねばならない。それは「行政」や「商店街」だけではない。先に挙げた「住民」もその一員であるし、「市民活動団体」などにも働きかけていく必要があるだろう。
 リサーチの成果は、将来像を描くための貴重な手立てのひとつである。報告書をまとめて終わりではない。行うべきことは、ここに示されている。並びに、28年度までの学生たちによるリサーチとアート作品も貴重な「まちづくりの種」である。
 それらも併せて、これから何をすべきかを考え続け、実践し続けることが最大の課題といえる。

(佐藤 和裕)


『中小企業ちば』平成30年7月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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