テーマ : 組合活性化につながるソフト事業の創出

補助事業名 平成27年度連携組織活性化研究会
対象組合等 松戸駅周辺商業協同組合
  ▼組合データ
  理事長 林 護
  住 所 松戸市松戸2060
  設 立 平成24 年9 月
  業 種 小売業、飲食店中心の異業種
  会 員 26人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 商業連携支援部(℡ 043-306-3284)
専門家 ガーデニング・コンサルティングオフィス 代表 伊藤 壮平(中小企業診断士)

背景と目的

 松戸駅周辺商業協同組合は、松戸駅東口周辺の7商店街を中心に結成され、ハード事業はエリア内の大型店も参画する「松戸周辺活性化推進協議会」により進められており、組合ではソフト事業を主に手がけています。
 毎年クリスマス時期には音楽イベントやイルミネーション、歳末売り出し・抽選会などを実施してきましたが、抽選券発行の大半が大型店である等、商店街の回遊に繋がらず、抽選参加店舗が減少するなど個店の参加意欲が年々衰退しているとの懸念がありました。
 また近年、近隣のマンション建設により若いファミリー層の流入もあり、通行量は横ばいで保たれていますが、これら新しい住民層への接触機会が少なく、来街に結び付いていない状況でした。
 地域内には自治会を中心としたまちづくり組織等もあり、過去連携したイベント事業も実施しましたが、方向性にずれが生じ、現在は別段の活動を実施しています。
 これらの状況から今後の組合として必要な活動・事業を勉強会(全7回)の中で模索して行きました。

事業の活動内容

■これまでの組合の取組と課題

 まずは今後の組合運営の課題を抽出してみました。
・ 狙うべきターゲットと思われる地域住民「参加」型のイベント構想(子どもの取り込み等)
・ 1度限りの打ち上げ花火の賑やかしではなく、継続性・持続性のあるイベント構想
・ 各店店主の参加意欲の向上(一緒に盛り上げてゆく)
・ 名所旧跡・地域イベント等の「地域資源」の活用
・ 地域住民に向けた広報手法(特にマンション等新規住民層)
・ 地域住民・地域諸団体との「つながり」の強化
 これらの項で全国での先進事例を紹介し、松戸地区で取り入れられる試みについて勉強会内で意見交換を実施することになりました。

■ 街のベンチマークと松戸駅前周辺住民の現状

 松戸駅周辺の人口動向と商業集積状況を確認する中で、物販店の比率が低いことを問題視する意見や、また周辺都市の開発が進み商業的に地盤沈下している、過去の開発で地権者の足並みが揃わず街の分断が生じた等の意見が挙がったため、柏のまちづくりコンセプト(ベンチマークを渋谷・横浜に設定)の事例を紹介しました。
 その上で、松戸の場合はどのようなベンチマークが想定できるか、と募ったところ、駅前の大型店、古い町並み、公園、文教都市、娯楽サービスと生活サービスの融合等多くの共通点が見出せる「吉祥寺」という意見が挙がり(後に、過去開発時の街づくりコンセプトとして「吉祥寺」を目指したことが判明)「吉祥寺」をベンチマークし、取り組み等を懸案してみることにしました。吉祥寺のまちづくり計画「吉祥寺グランドデザイン」からコンセプトやソフト的なアイディアを抜粋して紹介し、松戸駅前との共通点や当てはめられる点について意見交換を行いました。
 また過去松戸市で実施した「松戸市商業・商圏調査報告書」「松戸市転出入者アンケート調査」のデータを用いて、今の松戸駅前の課題を抽出してみたところ、主に下記の点に集約されました。
・ 住人(特に新規転入者)の「我が街」・地元感の欠如
・「治安が悪い」イメージ
・回遊性の低さ
・周辺地域への情報発信不足
 特に情報発信不足により、防犯カメラ設置や商店街の数々の取り組み、また強みの地域資源である歴史的建造物や江戸川・公園等の「緑や水」の認識が得られず、これらを活かしながら地元商業をアピールできる取り組みについて検討したところ、松戸の歴史的資産と商業を組み合わせた「松戸再発見ツアー」として、マップの作成及びまち巡りツアーの企画案の発案があり、これを中心に検討を行うこととなりました。

■ 組合事業としての実施要件・まち歩きイベント事例・マップ事例

 最近の「まち歩きイベント」の事例とともに、松戸駅周辺の住宅地図を元に、「松戸再発見ツアー」のルートや組合員店舗をマッピングした資料を用いて、どうすれば文化的・歴史的資産と商業を結びつけることができるかを協議しました。同様の「まち歩き」コンテンツは他団体からも提供されており、「商業者でしか作成がなしえないもの」「組合員にとって有益なものであること(まちなかに人を回遊させる要素がある)」「組合員に手間が掛からないもの(まずは実績が重要)」と前提条件を提示した上で内容を協議しました。
 また現状は歴史的施設を目指す顧客が直行直帰となっており、まちなかに「歴史的薀蓄」があるポイントがあれば、歴史に興味のある団塊の世代のまちめぐりに繋がるのでは、と発案したところ、「小ネタ」が複数挙がりました。これらを集めることでまちなかも含めた回遊を促すコンテンツにすることも可能です。
 来街者ニーズ(ターゲット)及び切り口(例:歴史・食など)を固めた上でないと、成果物もぶれてしまい、結局誰にも届かないものになり、ここを事前にしっかりと設定することが肝要です。
 そこで、ターゲットは現在歴史的建造物を訪ねる中高年や、近年松戸に住み始めた子育て世代、掛け合わせる切り口はまちなかの歴史やまちを沿って流れる坂川等の意見が挙がりました。

■ 松戸のまちのクロスSWOTと今後の事業方向性について

 近年松戸の歴史的建造物がメディアで取り上げられていることや(インバウンド観光客も増えています)、市が力を入れる子育て世代の増加等に加え、松戸駅周辺を中心市街地、文化の拠点として力を入れていくとの話もあり、これはまさに「機会」です。
 「強み」としては周辺都市にはない松戸宿としての歴史であり、都心へのアクセスや商業・住居エリアの近接や自然が多い等住みやすい環境が挙げられます。
 「弱み」は地域住民(特に新規在住者)の地元感の欠如や、「治安の悪い」イメージの一人歩き(情報発信不足)が考えられます。
 「脅威」は周辺都市の台頭や、郊外大型施設の開設に伴う顧客流出、及びまちづくりに際する団体が多く、団体間調整がうまくいっていないことも挙げられます。
 このことから特に「強み+機会」を生かし、観光客の街中への取り込みが最優先事項であるという結論に、また「強み+脅威」でも周辺都市にはない歴史コンテンツの活用が重要との結論に達しました。
 「弱み+機会」については、情報発信や地域住民を巻き込んだ参加型イベントの必要性が挙げられました。また観光協会等と連携し、海外観光客向けに街中への無料Wi-Fi敷設等のアイディアが挙げられ、これは「弱み+脅威」でも功を奏すと考えられます。
 その後、まち歩きイベントの素案が提案され、次年度実施することについて参加者の合意を得ることができました。またインバウンド観光客の増加にも対応が必要との発案があり、松戸国際交流協会と連携し、外国人ツアーの実施も計画に加味することになりました。

事業の成果・今後の事業展開

 この「まち歩き事業」は本年度の「地域商業活性化チャレンジ事業」に採択され、本年度11月より実施の予定です。継続的実施を主眼に、実施後のアンケート等を元に次回以降のツアーをブラッシュアップさせてゆくとともに、在住者や来日する外国人旅行客等への周知を続け、組合内でも参画店舗を拡大してゆくことで、「松戸」を知っていただく層を徐々に広げてゆきたいと考えています。
(伊藤 壮平)

 


『中小企業ちば』平成28年12月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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