テーマ : 今知っておくべき労務管理基礎

補助事業名 令和元年度連携組織活性化研究会
対象組合等 君津市測量設計業協同組合
  ▼組合データ
  理事長 宮名 誠
  住 所 君津市久保3-2-11
  設 立 平成16年12月
  業 種 測量設計業
  組合員 8人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427)
専門家 社会保険労務士法人ハーモニー 山崎 裕樹(特定社会保険労務士)

事業実施の背景と目的

 中小企業・小規模事業者でもいよいよ、労務管理全般を整えることが急務となりました。その理由が2つあります。1つは、人材不足の問題です。総務省の統計では、2010年をピークにこの先50 年働く労働者総数は減少し、その中で占める高齢者の数は増えていく予想がでています。専門性の高い業界で若手を採用するのは難しいのが現状ですので、長く安心して働ける職場環境を整えるのは必須と言えます。2つ目は、労働者の意識の変化です。年齢、社歴を問わず、労働時間、有給休暇、休日、残業など、ご自身の働く上での権利について、労働基準法との矛盾があれば、根拠をもって指摘してくるようになりましたので、場当たり的で曖昧な対応では済まなくなりました。インターネットやSNSの発展に伴い、労働者自ら、簡単に、膨大な情報の中から、信ぴょう性の高い労務知識にアクセスできる環境が整ったことがその背景です。
 では、中小企業・小規模事業者がどこから手を付けていけばよいのでしょうか。今回は、『今知っておくべき労務管理基礎』と題してお話をいたしました。

事業の活動内容①

(1)監督署調査から見た、労務管理・実務ポイント

 定期的に(4年に1回程度)実施される監督署調査のポイントから押さえていきましょう。
 事前に送られてくる通知文書を見れば、調査内容はある程度、予想できます。調査で注目される項目については、以下、主なポイントを整理します。
◆労働条件通知書(雇用契約書)
 正社員だけではなく、パート・アルバイトを含め、すべての労働者に労働条件通知書を書面で交付しているかを確認されます。(ちなみに2019年4月より電磁的方法による提示も認められています。)調査では、賃金台帳で給与支給が目視できる全労働者を確認します。特に中小企業の場合、労働条件通知書の締結が漏れていることがよくあります。口頭のみだと、期間の定めの有無、昇給・賞与・退職金の有無、場合によっては正社員とパート・アルバイト、正社員間で違いを設けている手当の支払い方まで、判断が曖昧になってしまいます。
 労務リスクが非常に高くなりますので、調査のために留まらず、紛争回避のためにも厳格な整備が求められます。
◆タイムカード・賃金台帳
 厚労省で用意されたフォーマットがあるので、こちらを確認の上、すべての項目の調整が必要です。よく指摘がされるのは、労働時間についてです。1か月の所定労働時間の合計とは別に時間外労働時間、休日労働時間、深夜労働時間などの項目の有無、まとめてではなく、個別に記載されているか、確認されます。
 さらにそれぞれの項目の計算が正しいかも問われます。時間外労働時間の計算方法では、次のような点が要注意です。調査前には一度、顧問社労士などの専門家の目で確認してもらうとよいでしょう。①残業単価計算で分子となる賃金には、すべての手当(家族手当、住宅手当等、法律で認められた特定の手当を除く)が入っているか。②残業単価計算で分母となる所定労働時間数の根拠を説明できるか(基本的には、1年を平均した、月所定労働時間数)。
◆36協定等の各種協定
 36協定届に絞って説明します。注目すべきは36協定届の基本項目を示した書面の右上に、労働保険番号を記載することになった点です。36協定届の存在を知らず、恒常的に残業を認めていた会社であっても、今後は、労働保険番号と紐づけられ、システム上、未提出事業所を瞬時に抽出できることになります。無作為にアンケートを送り、未提出もしくは、長時間労働の実態があった事業所に対し、個別調査をおこなっていくような監督署の動きも、今後、予想されます。
 さらに、特別条項が別紙になりました。実務上、正しく運用するために注意すべき2つの記載事項があります。1つは特別条項の発動があった際、行うべき具体的な健康確保措置を記載することになりました。個人的には、年次有給休暇の取得促進をおススメしています。有給休暇の付与義務と合わせて、長時間労働防止策として、現場に説明しやすいのが、その理由です。
 2つ目に、この特別条項の発動時の手続きの記載が必要です。厚労省の記載例をみると、「労働者代表に対する事前申し入れ」となっています。プロセス的に負担がかかるようでしたら、おススメは、「労働者代表に対する事前通知」です。会社からの一方的な通知だけで発動できます。

事業の活動内容②

(2)働き方改革関連法に対応した、労務管理・実務ポイント

◆労働時間の適正な把握とは
 時間外労働の上限規制が、2020年4月より中小企業にも適用が開始されました。既に2019年より、客観的な方法で、日ごとの労働時間を把握・管理する義務が定められました。労働時間管理を除外されている管理監督者を含め、すべての労働者に対して把握するとなっています。過重労働になりがちな管理職については、そもそも労働基準法上の管理監督者の要件を満たしていなければ、賃金請求リスクが高まります。
 時間外労働については、新たに、守るべき基準が以下の通り、示されています。
 ①1か月100時間未満(時間外・休日労働の合計)、②2~6か月平均で80時間以内(時間外・休日労働の合計)、③年間720時間以内(時間外労働のみ)、④月45時間を超えられるのは、年間6か月のみ(各人別)の4つです。労働時間を自己申告もしくは、手書きのシートで運用していた会社には、管理を効率化するために今後、タイムカードや勤怠システムの導入を強くお勧めします。
◆有給休暇の5日の付与義務とは
 2019年4月1日より、労働基準法に明記されました。対象者は、年間の付与が10 日以上の方です。正社員だけではなく、勤続年数に応じて、週3日勤務、4日勤務、5日勤務のパート・アルバイト等の一部も対象に含みますので、ご留意ください。ここでは取得促進の方法を2つご紹介します。1つは、計画的付与の形で認める方法です。会社と労働者の過半数代表者との間で、協定を締結し、例えば、お盆や年末年始のお休みの前後で、取得しやすい時期を定め、有給休暇扱いとします。一度、計画すれば、その日に勤務することは、基本的に認められません。さらにもう1つの方法が、今回の5日の付与義務のタイミングで設けられました。「使用者による時季指定」の方法です。個々の希望を聴きながら、あらかじめ、会社の方で5日以内の日数を指定するのです。
 ちなみに法律上、違反した会社には、30万円の罰則が設けられています。さらに今後は未取得の労働者が退職する際に、会社の管理不備を理由にして、有給休暇の残日数の全てに対し、買取り要求が出てくるかもしれません。(法律上、義務ではありません)
 併せて、有給管理簿の作成も義務付けされました。紙の管理簿でも、勤怠管理システムでもよいとされています。いずれにせよ、1年間の繁閑スケジュールを事前に予測し、取得漏れのないような実務対応が大事になります。
 働き方改革関連法の施行で、中小企業・小規模事業者といっても、労務管理の基礎を整えていく理由がご理解頂けたかと思います。紙面上でご紹介したポイントを確認頂き、まずは自社の現状と向き合うきっかけになれば幸いです。

(特定社会保険労務士 山崎裕樹)


『中小企業ちば』令和2年11月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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