テーマ : 共同工場リニューアルの実現に向けた研究会

補助事業名 平成26年度連携組織活性化研究会
対象組合等 船橋機械金属工業協同組合
  ▼組合データ
  理事長 板谷 直正
  住 所 船橋市栄町2-14-12
  設 立 昭和34 年12 月
  業 種 金属製品製造業
  組合員 43人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427)
専門家 中小企業診断士 清水 透

組合の現状と研究会概要

 当組合が所有している土地の有効活用について平成25年度に、千葉県中央会の補助を受けて「時代を見据えた中長期組合ビジョン」をまとめている。
 このビジョンを受けて平成26 年度において、中長期組合ビジョンの実行計画を練るため「連携組織活性化研究会」が設けられた。
 中長期ビジョン策定のアドバイザーとして関与した結果を、公表可能な範囲で報告していきたい。

事業の活動内容

 ●先進事例調査●

 活性化研究会では、所有土地の有効活用の実行段階を想定して、資金面、完成後の運営面の問題について、研究討議を重ねた。研究内容を具体化するために、一つのケースとして、共同工場の先進事例の調査をした。
 東京都内の製造業者が建設した共同工場を研究会の有志が見学し、さらに、情報を共有するため、本研究会にこの組合の代表者を招いて留意点についての説明を受けた。
 先進事例の組合は、共同工場ではなく「重層工場」という言葉を使っていた。他にも、「工場アパート」という名称を使用しているところもある。いずれの場合も、一つの建物の中に区割りした空間を作り、そこに製造工場を誘致する施設と考えてよいだろう。入居者が賃貸になるケースも、分譲になるケースも、その両方が混在しているケースもあるが、いずれの場合も一つの建物に区割りした空間を設け、そこで複数の独立した製造業者が事業を営んでいることに変わりはない。

 【先進事例の概要】

 ☆三階建で屋上には100台以上の駐車場を持っていて、従業員のみならず近隣の人にも貸している(月額一台一万六千円~二万六千円)。この駐車場収入は、組合の有力な資金源になっている。☆入居者はすべて分譲である。所有者が撤退し、貸しているところもあるが、その場合にも入居者は製造業であることを条件にしている。撤退に際し売却のケースもある。その場合も、売り先は製造業にするよう要請している。自分の所有物を売るのだから自由にさせてくれ、との声もあるが、現状では製造業にしている。☆宿泊はできないが、24時間営業は可としていて仮眠施設は認めている。☆管理費は空間賦課(1?=90円ほど)にしている。空間賦課にしている理由は、天井高が各階で異なり(一階6.35m、二階4.7m、三階4.3m)、床面積割にすると不平等になるからである。一階は重量物を置ける。そうした点からも単なる面積割では納得してもらえない。☆入居企業の半数は一~三人規模の小企業である。☆クレーンを設置しているが、天井高が不足して、使えないことが多い。☆電気設備については、入居者により使用電気量が異なるので設備を変えなければならないケースがある。☆運営は自主管理である。輪番制で理事長を務める。
 以上が先進事例に学んだ運営面の諸問題及び対応内容である。
 運営面以外の資金面についても種々の問題が議論されたが、本稿では割愛する。

ビッグプロジェクトに挑戦する際の留意点

 共同工場に限定して先進事例を学んだことで、組合がビッグプロジェクトに挑戦する場合の一般的な留意点を学ぶことができた。共通するのは、①出口戦略、②調査結果の信頼度、③実行部隊編成、の三点である。

①出口戦略

 出口戦略というのは、ベトナム戦争の反省から生まれた考え方と言われているが、組合のビッグプロジェクトにおいても重要である。一度決めたら猪突猛進というのは、ベトナム戦争のような悲劇を招くかもしれない。
 組合においても、出口戦略・撤退の場面を想定することは重要である。地方新聞の記事で次の組合のケースを読み、撤退戦略の重要性を感じたことがある。
 ある商店街が、来街客の減少対策のために立体駐車場を建設した。しかし、この駐車場の利用者は少なく高度化資金の返済に窮するようになり、組合が自己破産を申請した、という記事である。
 組合が自己破産すると、連帯保証している理事がその負担を被ることになる。恐らく、立体駐車場のプロジェクトに慎重論を唱えた理事・組合員はいただろう。組合は、そうした反対を多数決で押し切ってしまうことがある。
 組合の意思決定は法的には多数決だが、その前段階の「対話」が不十分だと、実行段階で反対派の脱退という事態が起きる。
 この商店街も、対話を十分に行い、振り出しに戻す出口戦略を設けておけば、自己破産を避けることができたと想像する。

②調査結果の信頼度

 組合がビッグプロジェクトを進める時には必ず調査をする。この調査の信頼度は問題である。調査結果を持ち出されると反対しにくいが、調査結果を鵜呑みにするのは危険である。
 調査結果を疑って、難を逃れた事例を紹介しよう。
 某県の「道の駅」を運営している協同組合は、コンサル会社が出した年間来店客数を疑った。コンサル会社は、根拠が明確な各種データをもとに、年間来店客数を割り出した。コンサル会社の数字を見せられるとこれを信じる人は多い。しかし、根拠があっても、それは全国平均であったり、時代背景・周辺環境が異なるものだったりする。自分のところと同じ条件のデータは存在しないのである。この組合の事務局長は、調査データを疑った。そもそも観光客をターゲットにすることに無理があると考え、地元客をターゲットにした計画に変更し大成功している。
 もう一つ、調査を慎重に繰り返した事例を紹介する。
 某市の工場アパートでは、入居希望者のアンケートを、オープンまでの三年の間に三回実施した。結果はその都度違っていた。具体案を提示した最終アンケートの後でさえも、離脱者が出て借入金の返済計画の修正に迫られている。
 「完成したら入居しますか」との問いに「入居します」と応えた人が、実際に入居するとは限らない。人は、とりあえず「入居します」と応え権利確保に走るものである。これを「入居」とカウントすると、後でとんでもないことになる。直前になって「やっぱりやめます」と言われても相手を責めることはできない。
 以上のように、調査結果はあくまでも参考程度に考えておかなければならない。

③実行部隊編成~世代交代のチャンス~

 企業もそうだが、事業体には世代交代の時がある。このチャンスを的確に捉えないと、組織は衰退する。ビッグプロジェクトは世代交代のチャンスである。若者にビッグプロジェクトを任せると、彼らは燃える。それが世代交代につながる。
 ある商店街は再生のビッグプロジェクトを青年部に任せ成功した。
 新幹線開通に伴い、商店街から1㎞のところに大規模ショッピングセンターができ、商店街のシャッター化が進んだ。この時、青年部の会長は、理事長に理事の世代交代を進言した。理事長はこれに応じた。若返った執行部は、毎月一泊二日の研修を一年間継続し、商店街の将来象を決め、それを実践する活動に入っていった。 先ず、ユニークなイベントを行い、次に住民に「欲しいお店」に関するアンケートを実施した。結果は「生鮮三品の店」を望む人が多かったので、空き店舗で生鮮三品の店をテストした。そのテストで、直接、来店客と会話して分かったのは、住民が求めているのは、生鮮三品ではなく惣菜店らしいということ。そこで惣菜店に切り替え成功している。ここでも調査結果を鵜呑みにしないことと、テストする行動力の重要性が分かる。
 ビッグプロジェクトには実行部隊が必要である。本気で実行する人を育て、同時に、組合の世代交代を図ることを考えてもよいのではないだろうか。

今後の事業展開・展望

 組合を活性化するのは人である。右の三点に共通するのは、行動する人による本気の取組み、といえるだろう。当組合の所有地の有効活用は、工業団地の物的な将来を形作ると同時に、人的団結の将来も作るチャンスである。
 船橋機械金属工業(協)は、国指定団地の第一号事例である。本プロジェクトを機に、工業団地の新たな方向性を示してくれることを期待したい。 (清水 透)


『中小企業ちば』平成27年7月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)