【問】

 事業協同組合が備えていなければならない基本的な基準と運営上守るべき原則は何ですか

【答】

 このことは中小企業等協同組合法の第5条に「基準及び原則」として定められており、組合運営上必ず留意しなければならない事項です。その内容は以下のとおり。
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  4つの基準
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(1)相互扶助目的

組合は、組合を構成する中小企業者の相互扶助を目的とするものでなければならない。このことは、組合に一貫した思想であって、他の基準及び原則もすべてここから発するものである。
資本主義社会においては、事業者は、激しい自由競争の場に立って、自己の経営の安定と利潤の追求に努力しなければならない。このことは、組合を構成する中小企業者の相互間においても同様である。むしろ相互扶助とは逆行する傾向にある中小企業者が一つの組織を結成し、協調して経営の合理化を達成するためには、より大きな目的と、その手段としての有利な共同事業がなければならない。

(2)加入脱退の自由

組合は、相互扶助の精神を基調とする組織であるから、組合への加入及び組合からの脱退は任意でなければならない(法第14条、法第18条)。しかしながら、組合への加入は組合契約の締結であり、組合からの脱退はその解除であるから、これに伴う権利の行使及び義務の負担は当然に求められるものである。この点を無視して相互扶助目的は確保されない。

(3)議決権、選挙権の平等

 組合は人的結合体であり、組合員は出資を必ず1口以上持たなければならないが(法第10条)、これは共同経営体としての組合を運営する上に必要な一つの手段であって、経営参加権の取得あるいは出資金に対する配当の受領を目的とするものではない。したがって、出資口数の多寡にかかわらず議決権及び選挙権は、すべて平等に1個を与えられており(法第11条)、この点は、物的結合体である株式会社等と本質的に異なっている。

4)剰余金配当の基準

 組合の事業は、組合員の事業経営の合理化を目的とするもので、会社等営利法人が営利を目的として行なうのとは大いに異なっている。組合の事業は、組合員を直接の対象としており、組合の剰余金は、組合員から徴収した手数料等が多額であったことが原因となっている。組合が非営利法人である以上、このような性格の剰余金は、本来組合員に属するべきであるので、主として組合事業の利用分量に応じて配当すべきものとされている。しかしながら、組合も一個の事業体として出資金を保有し、これを財産的基礎として運営を行なっている以上、これが事業運営に果たす役割を否定することはできない。ここに出資配当を認めるべき観念が生じるが、剰余金の性格から、出資配当は従とされ、かつ、株式会社のように無制限に認められるものではなく、組合法で定める限度内(法第59条以内)において定款で定めなければならない。
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  2つの原則
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(1)直接奉仕の原則

 組合員に対する奉仕は、組合の共同事業を通じて行なうものである。組合の行い得る事業範囲は、法律によって定められており、それ以外の事業によって組合員に利益を与えることは組合の目的ではなく、また、違法行為となる。組合は法律上許された事業を通じてのみ組合員に奉仕するものである。しかしこのことは、組合が組合員の親睦融和を図ることについてまでしてはならないというのではない。それらは付随的な行為であって、組合はあくまでも経済事業又は組合員に対する教育事業を行うことを本体とし、それによって組合員に奉仕をし、利益を与えることを目的としなければならない。
組合員に対する奉仕は、直接的でなければならない。直接に奉仕するというのは、営利を目的として、利益を上げ、これを配分するという間接の奉仕によらないという意味である。組合の事業は対外的に第三者に対しては、会社と同じ事業活動をするものであるが、それは組合自体が利潤を上げるためではなく、組合員の事業経営を合理化するためのものである。また、組合員に直接奉仕することは原価主義によらなければならないということではない。組合は、原則として市価主義を採用すべきであり、市価主義による結果、組合に剰余金を生じた場合には、これを組合員に配当することができる。この配当は、会社の利益分配とその性質を異にする。
組合は、配当自体が目的ではなく、また出資配当には一定の制限が置かれ、その事業の利用分量に応じてしなければならない。それは結局、組合員に対する直接奉仕の現れである。要するに、組合は、利益を上げて出資に応じてこれを組合員に分配することを目的とするものではなく、組合の事業を通じて、組合員の事業経営を有利に展開せしめ、その自主的な経営活動を促進し、その経済的地位の向上を図るために直接奉仕をすることを目的とするものでなければならない。
組合事業は、特定の組合員の利益のみを目的としてはならない。
組合が組合員に奉仕するとしても、一部特定の組合員の利益だけを目的としてその事業を行うことは、原則に反する。

(2)政治的中立の原則

 組合は経済団体であって、政治団体ではない。政治に関し、これに進出することは組合の目的とすることではない。この基本的性格を逸脱して組合が政治団体化し、特定の政党の党利党略に利用されることは、組合の本来の目的からして当然禁止されるべきである。したがって、組合の名において特定の公職選挙の候補者(組合の役職員が候補者である場合も含む。)を推薦したり、総会等において特定の候補者の推薦や特定政党の支持を決議することなどは許されない。
なお、本規定は、組合外部勢力から、あるいは、組合内部の少数者によって組合が政治目的のために利用されることを防止する趣旨であり、組合の健全な発展を図るための国会等への建議等の政治的運動はこれに抵触するものではない。

【参照条文】
*中小企業等協同組合法
(法律の目的)
第1条 この法律は、中小規模の商業、工業、鉱業、運送業、サービス業その他の事業を行う者、勤労者その他の者が相互扶助の精神に基き協同して事業を行うために必要な組織について定め、これらの者の公正な経済活動の機会を確保し、もってその自主的な経済活動を促進し、且つ、その経済的地位の向上を図ることを目的とする。

(出資)
第10条 組合員は、出資1口以上

を有しなければならない。(以下省略)
(議決権及び選挙権)
第11条 組合員は、各々1個の議決権及び役員又は総代の選挙権を有する。(以下省略)

(加入の自由)
第14条 組合員たる資格を有する者が組合に加入しようとするときは、組合は、正当な理由がないのに、その加入を拒み、又はその加入につき現在の組合員が加入の際に付されたよりも困難な条件を付してはならない。

(自由脱退)
第18条 組合員は、90日前までに予告し、事業年度の終において脱退することができる。

2  前項の予告期間は、定款で延長することができる。ただし、その期間は、1年を超えてはならない。
(剰余金の配当)
第59条 組合は、損失をてん補し、第58条第1項の準備金(法定利益準備金)及び同条第4項の繰越金(法定繰越金)を控除した後でなければ、剰余金の配当をしてはならない。

2  剰余金の配当は、定款の定めるところにより、組合員が組合の事業を利用した分量に応じ、又は年1割を超えない範囲内において払込済出資額に応じてしなければならない。
(以下省略)

このページの情報は『中小企業ちば』平成20年7月号に掲載時のものです。
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