【答】
ポイント★代表理事には二重の残任義務がある ★理事退任後は代表理事としての残任義務なし
代表理事が退任して、その後任者が決まらない場合の法律関係は少し複雑です。
代表理事には、二重の残任義務が課されているからです。理事としての残任義務と、代表理事としての残任義務の二つです。
任期満了で退任した代表理事は、次の代表理事が就任するまで代表理事として残任しなければなりません。そうしないと代表理事が不在の状態になってしまうからです。
疑問なのは、前代表理事が新理事に選出されなかった場合でも残任義務はあるのかということです。理事としての身分は新理事が就任した時点で終わります。終わっているのに、代表理事不在の状態を避けるために前代表理事は残任しなければならないのでしょうか。
結論は、前代表理事に残任義務はないということになります。理事でない者が代表理事として残任するのは不適切だからです。代表理事不在の状態が続くことになりますがやむを得ません。株式会社の代表取締役の辞任で残任義務が争われた例があります。(※)
A会社の甲代表取締役が辞任届を会社に郵送しました。新たに取締役として経営に参加してきた者に実権を握られるようになったため、辞めることにしたのです。甲氏は辞めてB会社を設立し、以前から自分が担当していた顧客CをB会社の取引先にして営業を始めます。A社は、顧客Cを奪った甲氏の行為が、A社の取締役としての善管義務・忠実義務違反にあたるとして五〇〇万円の損害賠償を求めました。
争点は、甲氏に残任義務があったのかという点です。裁判所は、次のような理由で甲氏に残任義務はないとしました。
「善管・忠実義務違反で損害賠償を求めることができるのは、甲氏がA社の取締役として残任している場合である。甲氏が辞任してもA社の取締役は最低数を満たしているので、甲氏の辞任は残任義務なく有効に成立する。
代表取締役は取締役の地位を前提とするから、取締役辞任が有効ならば代表取締役になる資格を失う。資格がなければ代表取締役の地位も残任義務なく退任する。したがって、損害賠償責任はない」
この判決から、組合の代表理事も理事でなくなれば代表理事として残任することはないということになります。新理事による理事会を開催して早く代表者を決める必要があるでしょう。
(※) 東京地裁昭和四五年七月二三日判決判例時報六〇七号 八一頁 (中小企業組合理事のためのQ&A/清水透著・2010年5月(新訂)第1版第1刷発行より転載)
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